#004 王の剣
流石に何を言っているのかが理解できず、固まっているとルカは言葉をつづけた。
「近いうちに『王の剣』という、専属の側近の役職を作る。茜にはそれを頼みたい」
詳細な説明をしたつもりなのかもしれないが、唐突に『王の剣』などという聞き馴染みのない固有名詞を出されてもピンと来なかった。舌の上で転がしては、その言葉の子供っぽさにばかり目が行ってしまう。加えて専属の側近という言葉もまた不明瞭だ。今あの男の後ろで控えている女メイドのように、黒地のワンピースに白地のフリルのついたエプロンでも着てほしいのだろうか。だとしたら御免だ。そんな人の趣味に付き合うだけのようなことはしたいとは思わない。
「これも反応なしか。まあ、ひとつ疑問に答えるのならいま茜が考えているようなことではないよ」
相変わらずの不躾な言葉が少し癇に障る。
「やめてよ、その返事の仕方」
「なら、言葉にしてくれ。ずっと黙ったままじゃわからないだろ。疑問は口に出せ」
「だからってそこまで直接的に答えないでよ」
「わかったよ。すまなかった」
コイツは時折こういうことをする。人の心が読めるからって、平然と私の内情に思い浮かんだことに対しても返答をする。これがコイツのことを嫌う理由の一つだ。やけに私に寄り添ったふうで言葉を掛けてくるところが、余計に嫌いだった。
「話は分かった。それだけ?」
平静を装って言葉を返す。この男との会話はこういうことが何度もあるから、いちいち波風を立てられては進まない。私が譲歩するしかないのだ。
とはいえ、これだけの事実を伝えるのならば、適当にメッセージを私の携帯端末にでも送ればいい。それをせずにこんな畏まった広間に呼ぶのだから、それ以外にも何かすべきことがあるはずだ。
「想像の通りだ。さっきも言ったがこれは俺が茜に下す命だ。だからその就任式を同時にここで行うつもりだ」
ある程度予想をしていた内容が返ってくる。式典にも使われているこの広間で、任命という単語が出た時点でここまで察しはついていた。だから私は頷くこともせず、一呼吸を少し深く吸って吐くだけで、肯定の意思を表す。
それを見て取ってか男も舞台上からまっすぐに階段を下って降りてくる。傍らのメイドもそれに続いて階段を降り、先ほどと同じ距離間のところで止まった。相変わらず置物のように、我関せずという態度を貫いている。
男はもう一度こちらを見つめ、少し高い位置で私との視線が合う。近くなった距離感に緊張を感じ、体に力が入る。意図せず背中が張り詰め、急に自分の鼻息すら気になり始める。今までもある程度の近さまで接近して話すことはあったが、真正面にいることを意識すると嫌でも体が強張ってしまう。
「それでだな、今後基本的には恒久的にそれを全うしてもらうつもりだ。そのために茜の内部に流れる時間を取り払い、俺たちと似たような状態になってもらう必要がある」