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朱紅をむすぶ  作者: 十七二
第一章 少女が死んだ日
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#000.9 前日譚

「本日で私の役目は終わりです。明日は今日と同じ時間に公儀の間に向かってください」


 ルアがいつもと同じように無表情でそんなことを言った。


「はあ……」


 気の抜けた返事が漏れる。私の毎日はどうやら終わるらしい。


「疑問がおありかもしれませんが、すべては明日、王からお聞きください」


 それだけを言い残し、当然のように去って行っていく。一人取り残された私は、少しの間だけぼうっとしながら、ルアが言ったことを反芻していた。


 役目は終わりとは、たぶん毎日繰り返されているこれらのことだろうと思う。


 ルアという少女は私の教育係ということになっている。実感はない。いろいろと教えてくれているのは知っているけど、それが何の役に立つのかなんて考えたこともない。ただ、とにかく毎日、たくさんの言葉と様々な定義についていろいろなことを詰め込まれ、言われるがままに私はそれらを記憶している。それらのどれもが私には縁遠いものだという感覚だけはある。


 それが、おそらく終わる。いや、正確にはさっきで終わった。また、実感はない。もとから別にルアが私に行っていることに対して興味のようなものはなかったから当然と言えば当然だ。


 一つ、引っ掛かりがあったのは公儀の間という言葉。たぶんここにあるいくつもの部屋のうちのどれかだろう。


 私が住んでいるここは「城」と形容されるらしい。その中の一室として、おそらくはさっき言われた場所がある。曖昧なのは、私がここで自分の部屋と、ルアからいろいろなことを教えてもらうためのいくつかの場所以外に行ったことがないからだ。城のすべての構造は確かに記憶しているから、きっと問題ない。実際、今少し思い返してみて検討はついた。だから明日も大丈夫なはずだ。


 けれど、行きたくないと思う気持ちがこみあげてくる理由がある。それは王と呼ばれているあの男のことだ。


 私にとってアイツは気に食わない存在だ。理由はいくつかある。数えるほどしか会ったことがないけれど、そのどれもが最悪だったから。今は思い出したくもない。


 それでも言われたからには行かなくてはいけないのだろう。ルアが言ったように、私のこれまでの日常は今さっき終わった――ということになっている。明日からはたぶん別の何かが課される。そこに何らかの期待をすることはない。かといって必死になって避けたいものでもない。だからまあ、とりあえずは行ってみる。どうせ何もないのだから。今は、それだけでいい。


 部屋の出口を見て歩き出し、扉の前で立ち止まった。振り返り周囲を一瞥する。二人で過ごすには少し広い部屋。白一色でのっぺりとした空間。どうやらここを訪れるのは最後になるらしい、そんな予感がしている。

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