表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朱紅をむすぶ  作者: 十七二
第一章 少女が死んだ日
39/177

#035 相談事

 男も早々に立ち上がって広間を出て行ってしまった。パヴィトゥラも男に付いて出て行ってしまい、私も行こうかと考え、席を立ったところ、レインが話しかけてきた。


「ちょっといいか?」


 思いのほか真剣な顔つきで、私に対して何か言いたげな様子だった。今日もこれ以外に特別用はなかったため、了承をした。


 彼女は私を連れて、広間と同じ階にある、城の中庭が見えるテラス席に案内した。

 そこは広間へ通じる大きな廊下に面している。簡素な植物が垣根のように低く植えられ、シンプルな空間に文字通り花を添えていた。


 ここは高さがあるため、中庭の先には城壁と門、さらには王都と呼ばれている街並みが見える。昔風の荘厳で古めかしい見た目をした城とは対照的に、最新の技術で作られたビルがいくつも犇めいている。


 この二つの相反する景色は、城へと続く一本の大橋によって区切られており、人々はそこを通って城まで来ることができる。城自体は観光地のような面も担っており、平日休日を問わず、多くの人が橋を行き来している。


 この風景もいつしか見慣れてしまった。


 絶景と言われればそうだろう。

 朝方は透明な空気を孕んだ光が満ちて、ビル街の輪郭を鮮明に描き出す。夕暮れ時は城の背から差し込む橙色の陽が美しいコントラストを生み、青から紫、濃紺など、パレットに絵の具を混ぜ込んだような景色が見られる。夜は街が光を放ち、空も街も星が溢れて境がわからなくなる。


 しかしそれらすべては生まれた時から知っている。随分と前から当たり前になり、今ではいちいち気にして見ることもなくなった。レインに連れられてきたときも、ようやく暖かくなり始めた空気を感じただけで、目を遣ることもなかった。


「どうだった、今日の話は?」


 先ほどより声も表情も穏やかになっている。きっと社交辞令のようなものだとわかりながら、私も調子を合わせることにした。


「特に何もないです。聞いていただけですから」


「そうだな、今日は昨日とは違って楽だったろう?」


「はい、でも昨日も特別大変だったわけでもありませんよ」


 うんと彼女は頷いて下を見る。目を細めながら何かを考えている様子だ。


 風が吹いている。穏やかな風だが、まだ少し冷たさを感じる。二人の間をすり抜けては髪を揺らす。彼女の顔の右半分を隠す長い前髪の隙間から、左目と同じ形をした、整いのいい穏やかな右目が時折顔を覗かせる。


「率直に聞くが、なにか悩み事はないか?」


 意外なことを聞かれるものだ。今までそういった質問をされたことはない。私の事を気遣うそぶりを見せたものたちはいたが、それも表層上の事だ。私の内情をこんな風に直接的に聞いてくる者はいなかった。


 しかし特別今の私に悩んでいることなどない。至っていつも通りで、変わったことなど何もないから、その通りに首を横に振って応えた。


「ないですよ、なにも」


 私の発言に彼女はまた黙り込んだ。そしてまたしばらく考えるようなそぶりを見せてから口を開いた。


「すこし、話をしておきたいことがあってな。といってもほとんど私のことだ。正直に言ってお前には関係ないことの方が多いだろう」


「もしかしてレインさんの方からお悩み相談ですか? あいにく私に解決できるようなことはそう多くないと思いますよ」


「いいんだ、聞いていてくれるだけで」


 彼女は私の言葉にそう返しながら、話を始めた。正直何があってこんなことを話されるのかわからなかったが、黙って聞くことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ