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朱紅をむすぶ  作者: 十七二
第一章 少女が死んだ日
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 光は希望。


 そんな比喩は紛い物だ。あんなものは希望なんかじゃない。何もかもを暴き立て、現実を見ろと私を脅す。嫌だと拒んでも、目を瞑ることは許されない。どれだけ逃げようと、光は瞼の裏側にあった。


 常にではない。平時であれば、目を閉じた先は暗闇。光が入り込む余地などなく、闇の隙間に私は沈む。それでいい。それがいい。けれど――


 光がやって来るのは、私が何かから逃げようとしている時。見たくもないものから目を逸らし、したくもないことから逃げようとしている時に限ってやって来る。真っ暗闇に、炎が浮かび上がるように、最初はゆっくりと白い点が浮かぶ。それは段々と広がっていく。暗闇は白い光によって埋め尽くされ、眩しさに私は絶えられなくなる。


 逃げることは許さないと言われているみたいだ。ここにお前の居場所はないと、暗闇の中からつまはじきにされる。私は現実に戻ることを強いられる。


 閉じ続けることもできただろう。ただ明るいだけだ。光を直視しているというのは私の感覚に過ぎないものだと思う。例えば白色灯を直視した後の眩暈のような感覚。


 一瞬、現実が歪んでぼやけ、見ているものへの焦点が定まらなくあの感触は、この光においては起こらない。目を開ければ、さっきまでそれを見ていたかのように、何の障害もなく見ることができている。


 言うなればただ白いだけ。眩しいほどに白いだけの光景。けれど、私はそれがやって来ると、視界が白一色に埋まる前に目を開いてしまう。


 でも、現実だって、私には十分すぎるほど明るい。あの光景から目を逸らしたところで、やって来る現実もまた私には眩しかった。


 嫌いなわけじゃない。少なくともあの光ほどは。でも、好きでもない。現実には希望がなかったから。


 私の世界は決定的に閉じている。未来はない。ただ進む時間に身を任せるだけ。私なんてそこにはいらない。希望がないとはそういう意味だ。


 故に、あの光も嫌いなのだ。現実へと引き戻すことを強制するあの光が。


 じゃあやっぱり目を閉じていればいいじゃないかと誰かは言うだろう。堪えられないほどのものではないのなら、逃げてしまえばいいじゃないか。ほんの少しの我慢で、逃げ続けることができるんだろう?


 でも、一体いつまで? 逃げることを始めて、私はどれだけ待ったら逃げ切れたと言うことができるのか。終わりはどこにある。白一色の世界に身を投じて、ただひたすら立ち尽くし続けて、終わりはいつやって来るのか。そもそも、何をして逃げきれたということができるのか。現実から逃げるなんてのはそう簡単なことじゃない。それは己が命を投げ出す行為に等しい。そんな覚悟はまだ私にはない。光が嫌いで、現実が嫌いで、眩しくて目を逸らしたくて、そういうものに溢れていて、それでも目を見開いてしまうのは、逃げ続けた先の光景を知らないからだ。まだ、目に見える、形ある現実の方が、私にはマシだ。()()()()()()()


 だから、一度瞑った目をすぐに開く。そして、やっぱり光は嫌いだ。


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