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朱紅をむすぶ  作者: 十七二
第一章 少女が死んだ日
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#007 人と神の違い

「いや、ここには少なくと茜を知っている者たちがいる」


「え?」


「人間社会の中に当然ながら茜を知るものはいない。茜はずっとここでしか生きてきたことがなかったからな。だがここは違う。そして知っているものがいるというのは大きな差だ。人間社会で生きるのなら、頼れるものは何もないのと同じだ。公的機関による救済措置はあっても、所詮彼らは仮面をつけた存在にすぎない。だがここでは俺やルア、ネフがいる。茜は今まで自ら俺たちに何かを打ち明けるということはしてこなかったかもしれないが、それでも何かを考えるときに思い浮かぶ顔があったはずだ。それは知らず自らの支えになる」


 説得力はあると思った。確かに人間社会で生きていくのならきっと頼れるものは何もなくなる。城に舞い戻るということも私の性格上考えづらい。


 しかし城でも頼るものがなかったのは同じだ。男もルアもネフも、私のことを知ってはいるだろう。それは私からも言えることだ。けれど、男が言ったように私は彼らを頼ったことはない。理由は単純明快。ここにはすべてがあったからだ。私は退屈であるということ以外に不満はなかった。退屈もやることがないというだけで、そんなことにはもうとっくに慣れている。


 私は彼らの顔を思い浮かべたことはほとんどないと思う。すべてがあったから、振り返ることもなかった。だから頼ったりもしなかった。


 それでも男が言ったように人間社会で生きることは、ここで生きるのとはわけが違うだろう。人間社会にはきっとここにあったすべてがない状態で始まる。それこそ、今まで私は存在していなかったも同然なのだから、余分な席を途中から用意するというのは手間になる。その素性を理解してはもらえないだろうから、なおのことだ。


 だとすれば確かにここで生きていく方が幾分マシなのかもしれない。

 私の道は結局八方塞がりで、進めるところは決まっている。


「うん、まあ、どっちみち引き受けるしかないってことか」


「そう悲観的に考えるな。言っただろう、役に立つと。俺は頼りにしてるよ」


 嫌いなはずの男の言葉は私を安堵させた。

 私が求められているということは案外大きな安心感があるものだ。たとえそれが皮肉や憎むべき者からの言葉であっても、多少は好意的に受け取ることができる。少なくともここにはいていいのだという確信が持てるだけでも、自分が生きていくための足掛かりになる。


 この安堵への寄りかかりはいつか私を蝕むだろうか。けれどそんなあるかもわからにいつかを考えているくらいなら、私は今の自分の気持ちを大事にしていたい。


 自らの内で頷き、一呼吸置いてから、「それで次は?」と言った。


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