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第5章 感染拡大


俺と美桜ちゃんは民宿いやしにてのんびり話し込んでいた。

美桜ちゃんも最初は緊張していたが、すっかり夕さんと打ち解け、今では女子トークで会話に花を咲かしている。

俺はそんな会話に参戦出来るほど陽キャな訳はなく、目の前の強面男子と話していた。


「そういえばやすさん」


「ん? なんだ?」


「うちの親父からなんか連絡きてないですか? ばぁちゃん家から携帯にかけたんだけど出なくて...」


「あぁ来てたぞ? 仕事が立て込んでてもうしばらくはいけないってな! 尚のことたのんだーって」


そう言ってやすさんは豪快に笑った。


「あいつは相変わらずだな!」


「親父こっちにも連絡よこせよなぁ。やすさんありがとうございます!」


しばらく話し込んでいたが、尚はだんだん日が落ち始めていることに気がついた。


「そろそろ暗くなっちゃうので帰ります。 おばぁちゃんに心配かけちゃうから...」


「あぁそうだな。 ちょっと待ってろ! 車で送ってやるから!」


やすさんはそう言って、車のキーを引き出しから取り出した。


「夕! すこし車で送ってくるな」


「はいよ! 気を付けていくんだよ!」


「じゃ二人ともいくぞ!」


尚と美桜はやすさんについていく。


「夕さんご馳走様でした! お邪魔します!」


二人は夕にあいさつすると「二人ともまたおいで!」っと手を振って見送ってくれた。

車に乗り込むと、窓をあけて二人は見送ってくれてる夕に手を降る。


「商店街のほうは通れねぇから別の道にいくぞ! まずは美桜ちゃんの家からいくか?」


「はい! 私の家はここから梅ばぁちゃんの家にいくときに通るのでそこまでよろしくお願いします!」


「はいよ! そのときに教えてくれ。」


しばらく車を走らせているとだんだん天候が悪くなってきた。


「雪降ってきましたね」


「あぁそうだな。ここは山の中にあるから天候が崩れやすいんだ。これはしばらく止みそうにないかもしれないな。」


「來島村にくるときトンネルをくぐりましたけど道はあそこだけですか?」


「そうだな。あそこ以外は森だし崖もあるから危なくて人が立ち寄らないな」


「そうなんですか...もし雪で埋まったらどうするんですか?」


「わりと大きいトンネルだから埋まらねーよ! まぁもし埋まっても村で除雪するんじゃないか?」


やすさんは笑いながら答える。


「まぁそうですよね」


「あっ、やすさんこの辺りで大丈夫ですー!」


「おう! わかった!」


やすさんは車を止める。


「はいよ! ついたぞ! 美桜ちゃんのまたいつでも遊びにこいよ! 気をつけて帰れよー」


「はい! 今日はありがとうございました! 尚ちゃんもまたねー」


「うん! またねー」


美桜ちゃんに手を降りやすさんはまた車を発進させる。


「可愛くていい子じゃねーか! ちゃんと守ってやるんだぞ?」


「そ、そんなんじゃないですよ! でも、なにかあれば守りたいと思います! 」


尚は顔を赤らめながらそう答える。

やすさんは笑いながら「よし! さすがだな」と笑っていた。

尚はもしお兄ちゃんがいたらこんな感じなのかなって思った。


「尚! もうすこしでつくぞー! お前もまたいつでも遊びにこいよ」


「はい!ありがとうございます」


天候のせいかも知れないが、外はすでに薄暗くなっていた。

ばぁちゃんの家についてやすとお別れする。


「ばぁちゃんただいまー!」


「あっ尚ちゃんおかえりなさい! 心配したんだよ?」


「ごめんなさい...美桜ちゃんとやすさんのところに遊びにいってた。やすさんに車で送ってもらった!」


「そうかい! なにもなくてよかったさね。外は寒かっただろ? こたつで暖まりなさい」


「うん! ばぁちゃんありがとう!」


「なにか食べてきたのかい?」


「うん! 食べてきたから大丈夫だよ! そういや親父まだしばらくこっちに来れないって。やすさんに連絡があったみたい」


「そうかい! お仕事忙しいんだね。尚ちゃんだけでもゆっくりしていけばいいさ」


「うん! そうするよ」


外の雪はさっきよりひどくなり風の音が酷くなる。


「ついに吹雪いてきたね」


「そうだねぇちゃんと戸締まりしないとね」


すると玄関の扉がドンッとなにかにぶつかる音がした。


「なんの音だろ? 誰かきたのかな」


「雪の塊でも扉に当たったんじゃないかねぇ」


「そうなのかな? 一応見てくるよ」


「いいよ! 尚ちゃんはこたつで暖まってなさい。おばぁちゃん見てくるから」


「わかったぁ!」


こたつに入ってぼーっとしているうちに尚は眠くなり、だんだんと意識が遠退いた。

10分ほどたったころ尚はビクッと飛び起きる。


「やべっ、寝ちゃってた」


「ばぁちゃん? 大丈夫だったの?」


尚はまだぼーっとしてる頭でばぁちゃんを呼んだが返事は帰ってこなかった。


「ばぁちゃん?」


尚はもう一度呼んでみたが変わらず返事は帰ってこない。

尚はこたつから出てよたよたと玄関に向かった。


廊下は暗く壁をつたって玄関に向かっているうちにだんだんと寒くなる。


「さむっ! 玄関の扉あいてんのかな?」


玄関に近づくうちにビュービューと風の音が聞こえてきた。


玄関の扉を閉めようと裸足で近づくとぬちゃっと足に嫌な感触がする。


「うぉっ! な、なんだ?」


なにやら人形のかげのようでだんだんと目が慣れていくと次第に姿が分かってきた。


「う、うそ...ばぁちゃん?」


尚の頭は混乱し明らかな動揺で身体が震えだした。


「うそだろ、え…なんで?」


かつて尚のばぁちゃんであったものは所々肉はそげおち、なにかに噛まれた様なあとまである。


尚は口を手で抑え胃の中から逆流しようとしているものを必死で抑える。


急いでトイレに駆け込み吐いた。


吐くつらさとさっきまで優しく微笑んでくれたばぁちゃんの変わりきった姿に涙が止まらず、尚はトイレのなかで崩れるようにないた。


しばらくして混乱はしているが動揺はすこし収まり、改めて考える。

誰がこんなことをしたのか、いったいなにが起こったのか、それと不可解な死にかたを必死で考えた。

それでもわからず、やすさんに電話をしようとトイレからでた。


玄関の扉を閉じようとまたおばぁちゃんがいた場所に向かう。

するとさっきまでおばぁちゃんが横たわっていた場所にはなにもなかった。

血は残っているが、死体はなくなっていた。


「ばぁちゃんなんで? 確かにここにいたのに...」


尚は玄関から顔を出し辺りを見渡すが雪が吹雪いており遠くを見ることができない。

ひとまず扉を閉めてやすさんに連絡することにした。

やすさんに電話かけると数コールしてからガチャっと音をたててやすさんの声がする。


「はい、こちら民宿いやしです」


「やすさん? 白波尚です!」


「おぉお前か? どうした? なんか忘れ物か?」


「いやそうじゃなくて、梅ばぁちゃんがなにかに襲われて死んじゃった...」


「尚? その冗談は笑えないぞ?」


「いや冗談じゃないんだよ! 誰かが訪ねてきてそれで、俺寝ちゃってて、起きたらばぁちゃんが殺されてたんだ! ほんとだよ!」


やすは尚の異様な雰囲気から嘘じゃないと思った。


「わかった! 尚。とりあえず今からいくから絶対誰が来ても家にいれちゃダメだぞ? わかったな?」


「うん...わかった。ありがとう」


尚は電気を消して出来るだけ物音をたてずにやすの到着を待つ。

今まで生きてきたなかで一番長く感じる。

外からはゴォーゴォーと風の音が部屋に鳴り響く。


どれくらい待っただろう。

外から車のエンジン音が聞こえてきた。

部屋の中からチャイムが鳴り響く。

玄関の扉からドンドンと聞こえ、やすの声が聞こえてきた。


「尚、いるか? 俺だやすだ! いるならあけてくれ! 」


尚はこたつから急いででて、玄関に向かう。

おばぁちゃんがいたところを避けて玄関の扉を開けた。


「やすさん! ばぁちゃんが…」


「尚! とりあえず落ち着け! 梅ばぁちゃんはどこにいるんだ?」


やすは尚に聞くが尚は赤黒くなっている床を指差した。


「それが…そこでばぁちゃんが倒れていて俺がトイレで吐いて戻ったらいなくなって

た」


「そんなことがあるか? それなら梅ばぁちゃんは生きてたんじゃないのか?」


「でも至るところが傷付いてて顔なんか半分肉が見えてたから死んでたと思う...」


「そんなにひどい状態だったのか...尚を疑うわけじゃないが、信じられないな」


やすの中では尚を信じたい気持ちと、あり得ないだろうという考えがせめぎあっていた。

しかし尚の様子は尋常ではない。


「とりあえずここは危険かもしれないからうちに行くぞ! もしかしたら行く途中で梅ばぁちゃんがいるかも知れないしな...。一旦落ち着け。俺も一緒に考えるから。な?」


「うん…わかった」


少しは安心したのだろうが放心状態となってる尚を車に乗り込ませ、やすは民宿いやしへと車を走らせた。


車のなかの空気は重く、尚はずっと下を向いてる。

段々と吹雪も止んで視界がよくなる。


「やすさん! 美桜ちゃんは大丈夫かな?」


「そうだな...すこし寄ってみるか?」


「はい! お願いします!」


二人は美桜の家まで車を走らせた。

美桜の家はどうみても電気がついておらす

尚は嫌な想像をしてしまい、心臓がこれまでにないほど高鳴っている。

震える手で玄関のチャイムを鳴らす。


「すいません! 美桜ちゃん、いる?」


扉をドンドンとノックしながら尚は美桜ちゃんを呼ぶが中から反応はなかった。

扉のドアノブに手をかけると鍵はかかっておらず尚は中に入ることにした。


「美桜ちゃん! おばぁちゃんいますか? 白波尚です! 誰かいませんか?」


部屋は暗く、やすと尚で家の中を詮索する。


「やすさんおかしいと思いませんか? さっき別れたのに誰もいないって。なにかあったのかな?」


「あぁそうだな...美桜ちゃんもいないのか」


家のなかは暗く、周りが見えないため部屋の電気をつけるが、パチパチ音をたてるだけで電気が付かなかった。

仕方なく二人は携帯の明かりで周りを照らす。


「尚、別れて探すぞ! 俺はリビングを探してくるからお前は二階を探してくれ。なにが出るかわかんないから気を付けていくんだぞ?」


「はい! わかりました。やすさんも気を付けてください!」


尚とやすは別れ、尚はギシギシと音を立てる階段を昇る。


「美桜ちゃんの部屋はどこだろ? こっちかな?」


美桜の名前のプレートがかかった部屋のドアノブに手をかけ慎重に回す。


「美桜ちゃん...? 俺だよ! 尚だよ! 大丈夫? どこにいるの?」


可愛らしい人形が置かれた部屋も携帯の微々たる明かりで照らされてると不思議と不気味に思える。

一見誰もいないように思えたが、クローゼットからドンっと物音がした。


「美桜ちゃんそこにいるの?」


尚はクローゼットに手をかけ慎重にあける。

するとそこにいたのは毛布にくるまる美桜の姿だった。


「美桜ちゃん大丈夫? 何があったの?」


「尚ちゃん! 怖かった...」


美桜は動揺しており涙を流しながら話す。


「あのあと家に帰ったら部屋の電気が消されてて、携帯の明かりでリビングにいったら、おばぁちゃんが…」


美桜はそこで言葉をくぎり動揺で身体が震えている。

自分の腕で体を抱きしめているが、かなり動転した様子だ。


「大丈夫だよ、ゆっくりでいいから話して」


「うん...リビングでおばぁちゃんが口元を赤くしながら人を食べていたの...私は声を出さないようにここに隠れていた...」


「おばぁちゃんが人を? それは確かなの?」


「たぶん...でもおばぁちゃんが持ってたの誰かの手だと思う...」


「そっか…そのあとはわかんないんだよね?」


「うん…ずっとここにいたからわかんない」


「まずい! やすさんがリビングにいってる。美桜ちゃんはまだここに隠れてて!」


尚は立ち上がりやすがいるリビングへと向かう。

リビングに向かうとやすが置物を手に立ち尽くしていた。


「やすさん大丈夫ですか?」


よく見るとやすの手にある置物は血がついており、やすの服にも血がついていた。


「尚か? あぁ...俺は人を殺してしまった。美桜のばぁちゃんがいきなり襲いかかってきたんだ…すごい力で押し倒されそうになって置物を掴んで殴っちまった…」


やすの目の前には血だらけになっている美桜のおばぁちゃんが横たわっていた。

そのとなりには誰かわからないが食い殺されたような死体が一体ある。


「美桜のばぁちゃんの目はどこかいっていた…いや全部白目でこの世の物とは思えなかった…でも美桜ちゃんに何て言えば…」


尚はそんなやすになんて声をかけてあげればいいかわからなかった。

ただこの場から早く去りたかった。


「やすさん…美桜ちゃんを見つけました。今はここから早く出ましょう…」


「そうだな…俺は車のエンジンをつけてくるから美桜ちゃんを連れてきてくれるか?」


「わかりました。やすさん気を付けてくださいね」


「あぁわかってるよ」


やすは車へと歩きだし、尚は美桜を迎えに行く。


さっきと同じ部屋のクローゼットをあけると毛布にくるまってる美桜が顔を出す。


「尚ちゃん…やすさんは大丈夫だった? それにおばぁちゃんは?」


「やすさんは車で待ってるよ。 おばぁちゃんは…残念だけどすでに亡くなっていた」


「おばぁちゃんが? なんで?」


「わかんない…でも今はここを離れたほうがいいと思う」


「うん…わかった」


美桜は涙を流しながらも頷いてくれた。

一人では立ち上がることもできないようで、尚が支えてやっとという状態だ。

美桜の手を引き、やすが待ってる車へと向かう。

二人で車へと乗り込み、やすは急いでアクセルを踏み込む。


「美桜ちゃん大丈夫か?」


「はい…私は隠れていたので、やすさんは大丈夫ですか? 服が血まみれですけど…」


「あぁ大丈夫だ。この村に今なにかが起きてる。奇妙ななにかが…とりあえず家にいくぞ」


しばらく車を走らせると民宿いやしが見えてきた。

その頃には雪も止み、周りもよく見えるようになっている。


「よし! あと少しで着くからな、すぐ降りれるようにするんだぞ」


二人はうなずき、車からすぐに中に入れるように準備する。

民宿の前で車を止め急いで中に入る。

民宿の奥から声が聞こえてきた。


「おかえり! 何があった? みんな酷い顔して…。それにやす、その血は?」


「夕ただいま。この血は俺のじゃないから大丈夫だ。それより二人を奥にいれてくれ。あと裏口戸締まりしてくれるか?」


「わかった! ひとますお二人さん奥においで。今温かい飲み物用意するからね」


二人は夕の力強い声にやっと少し緊張の糸を緩めることが出来た。


ふとやすさんを見ると表玄関に鍵をかけている。

夕もただならぬ空気にすぐに裏口へ向かっていた。

尚と美桜は奥に進みリビングの椅子座る。


「尚ちゃんなにが起こってるの? なんでこんなことに…」


「俺もわかんない、でも俺のばぁちゃんも何者かに襲われて死んじゃったんだ…」


「梅ばぁちゃんが亡くなったの? なんで…」


「うん…なにが起きてんだろうね。そうだ…電話で警察とか呼べないのかな?」


「それは無理みたいだな」


鍵を閉めてきたやすが口を開く。


「試してみたが電話線がいかれちまったみたいだ。それに吹雪で電波障害が起こったのか携帯も役立たずだ」


「今日はここに泊まって明日に街に行くしかないかもな」


しばらく話してると夕が飲み物を持ってくる。

さっきあったことを夕にも教えた。


「本当? 梅ばぁちゃんも美桜ちゃんのばぁちゃんも亡くなったのか…二人ともショックだったね。 ひとまずここは安全よ。何かあったらやすを盾にするからね!」


「すいません! ゆうさんありがとうございます…」


尚が話していると美桜は疲れたのか眠ってしまった。


「かなりショックだったみたいで見つけた時は震えていました…今は寝かせあげたい」


「そうだな。尚もすこし寝たらどうだ?」


やすは着替えて、ついでに毛布を持ってきてくれた。


「いや俺はまだ寝れそうもないので…」


尚は乾いた笑いで困ったようにそういった。


「まぁ無理もないな。それより夕、その傷どうしたんだ?」


「これ? 店閉めている時にどこかの酔っぱらいがきて引っ掛かれた…。ホウキで追い返してやったけどね!」


「大丈夫なのか?」


「大丈夫。そのうち治るわよ。無理やりでも二人とも寝たら? 明日は街に行くんでしょ」


「あぁそうだな。尚も寝れないかも知れないけど、すこし休め!」


「はい、わかりました」



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