第4.5章
來島村の街中はいつもどおり平和である。
ただいつもと違うのが目の前のお肉屋さんのシャッターが閉じていること。
「いらっしゃい! さんま3匹お待たせしました! はい! またよろしくおねがいします!」
「おい! なんか健ちゃんとこおかしくねぇか?」
「そうだねぇ! 確かにいつもならやってるもんねぇー、あんたちょっと見に行ってみたらどうだい?」
「そうだなぁ。見に行ってみるか」
健ちゃんとは子供の頃から付き合いで、仲良くて同じ村で向かい合って店を始めた。
仕事を初めてから急に店を開けないのは今回が初めてだった。
お肉屋さんの玄関の扉に向かい、チャイムをならす。
「健ちゃん? いるか?」
扉をドンドンと叩いてもなにも反応がなかった。
諦めて帰ろうとすると、扉の奥からはドンッと音が聞こえた。
「健ちゃんいるんだろ? 大丈夫か?」
また扉をドンドンと叩き出した。
ふとドアノブを手をかけて回すと、ガチャっと音をたてて扉があいた。
「健ちゃん入るよ?」
おそるおそる家にはいる。
家のなかは電気がついてなく薄暗い。
お店の方を見てみたが誰も人の気配がなかった。
リビングのほうにいってみると朝御飯がそのまま置いてある。
やはりなにかがおかしかった。
健ちゃんの家族とは家族ぐるみの中である。
健ちゃんの奥さんもうちの嫁と仲が良かった。
ただリビングにもふたりともいなかった。
「健ちゃーん? いたら返事してくれぇー」
男は健ちゃんを大声で呼ぶと天井がギシッと音がした気がした。
「二階にいるのか?」
男は音がした二階に移動をする。
階段をギシギシ音をたてながら一歩ずつ上る。
親しいとは言っても、完全にプライベートな空間である2階はあまり踏み込むべきではないが、嫌な予感がする。二人の寝室に向かうことにした。
寝室のドアは閉まっており、男はドアノブに手をかけギィーと音をたてながら開く。
「健ちゃん?」
部屋は薄暗くてよく見えないが人影があるのはわかる。
後ろ姿だが小太りのシルエットはよく見たことがある親友であった。
「健ちゃんなんで返事しないんだよ? 心配したんだぞ?」
男は親友に近づく、肩に手をかけて振り向かせた。
暗くてよくわからないが顔色は青白く、目は充血しており視点は定まっていないようだった。
「健ちゃん大丈夫?」
男が声をかけた瞬間健ちゃんは肩にかけた手を掴み噛みついた。
「痛っ!」
男の顔が悲痛で歪む。
歯が食い込み男の腕の肉は、骨が見えるくらいに激しく抉れる。
男は健ちゃんを突き飛ばした。
逃げようと後ろに下がろうとすると足を誰かに捕まれる。
ふと見ると顔が半分そげおち、頭部の骨がすこし見えるその顔は健ちゃんの奥さんだったもの。
普通であれば息絶えているはずが力強く男の足を掴み、男のふくらはぎに噛みつく。
ぐちゃっと音をたて足の筋肉がぶちぶちとちぎれる音がした。
「痛っ! 助けて!」
なんとか男は噛まれてない足で女の顔を蹴り飛ばす。
ふと見ると健ちゃんもふらふらしながら立ち上がり近づいてくる。
男は痛む脚と腕をかばい、這いずりながらその場を逃げ出す。
「痛い! 誰かっ! 誰かっ! 助けてくれ」
噛まれた腕と脚の血は止まらず、血のあとを残しながら進む。
脚を引きずり、なんとか立ち上がる。
そして階段の手すりに必死に捕まりながら降りた。
「あと少しで出口だ!」
靴も履かず健ちゃんのうちの出口のドアノブを掴み回した。
後ろの階段の方からドドドっと何かが転げ落ちる音が聞こえた。
次の瞬間後ろから強い衝撃がきた。
衝撃に耐えれず男は扉をあけて顔から転倒する。
「いたい! なにがおきてるっ!」
なんとか振り向いたが、男が最後に目にしたのはかつて親友だった健ちゃんが血まみれにした口をあけて顔を近づいてくる光景だった。
「健ちゃ...やめ…て」