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第九幕~青年は未来を誓った4








 太陽が傾き、青色から茜色へと染まり暮れなずむ時刻。

 おもむろに空を仰ぎ見るルイス。

 時計を見ずに時刻を知るなんていつ振りのことか。

 そんなことを考えながら、ルイスは静かに視線を下した。


「もっとゆっくり休んでからでも良いんじゃないかい? 怪我はないにしても二人とも随分と疲れているようだし…」


 ルイスの目前に立ち、心配そうな面持ちでそう話すアークレ。

 彼女は早々に工場を発つルイスとトラストの見送りをしていた。


「お気持ちは有り難いが…今の我等に関わること自体危険だ。ならば、迷惑をかける前に一刻も早くこの足で軍都へ戻った方が良いのでな」


 と、ルイスより先にトラストがそう答える。

 彼の言葉に賛同するように、アークレの傍らにいた屈強な体格の壮年男性が口を開いた。


「確かに…あれから隣町の駐屯所から軍兵たちがやって来て早速町の跡地を立入禁止にしちまったかんな。あんまこの事件に関わんのはヤバいですぜ、女将さん」


 壮年男性は顔を顰めながらそう言うとルイスたちを睨むように見つめる。

 痛いくらい剥き出しな彼の警戒心には、ルイスも少しばかり理解出来た。

 何せその手際良い軍の手配は全て、トラストが予め助言していたことらしいのだ。

 有事の際には即座に町を包囲し住民も避難させるよう、彼は軍の上層部と決めていたと言う。

 だがまさか、包囲する町そのものが一瞬で無くなるとは、流石のトラストも想定外ではあったようだが。





「これ、持ってきな。お腹が空いたら困るからさ」 


 そう言うとアークレは包み紙をルイスに手渡す。

 包み紙越しに伝わるその温かな感触は、どうやら焼き立てのパンのようであった。


「夕飯用のを急いで窯に突っ込んだんだよ。エスタのよか味は劣るけどね」


 彼女の笑顔に、ルイスも思わず苦笑を洩らす。


「ありがとうございます」

「何かあればいつでも来なよ。あたしと…あの天使の子(ミラ―スちゃん)もいつまでも此処で待ってるからさ。でもいつかちゃんと、エスタと一緒に戻っておいで」


 心強いアークレの言葉。

 ルイスは深く頭を下げ、柔らかな笑顔を向けて言った。


「わかってますよ、マダム・アークレ。なんたって俺は何があってもエスタの親友…それは未来永劫変わらないんですから」









 工場を離れ、ゆっくりと歩き出すルイスとトラスト。

 土と砂利で軽く舗装された道を二人は進んでいく。

 と、歩きながらおもむろにトラストが口を開いた。


「ここからイラディの町まで夜が更けるまでには着くだろう。そこから、バスで駅まで行き蒸気機関車に乗り換えて行けば―――」

「駐屯所は頼らないのですか…?」


 ルイスの質問に、トラストは沈黙したまま答えはしない。

 隣町であるイラディにも駐屯所は存在する。

 もしくは、そこまで歩かずとも灰の町(ドガルタ)の跡地に行けばトラストの指示で手配された軍兵たちが居る。

 何故その彼らを頼らず、隣町まで行く必要があるのか。

 ルイスの疑問はもっともであった。


「―――今回の件で儂はおそらく全ての責任を問われ、処罰される。だがその前に、一縷の望みであるお主のため…色々手を尽くしておきたくてのう」


 作業員がその場で作った簡素な杖を付きながら、トラストはそう語る。

 彼の悲しき未来とは裏腹に、ルイスから見えるトラストの横顔には迷いも悔いも窺えない。

 むしろ執念のような何かにその双眸は燃えているようにも見えた。








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