第九幕~青年は未来を誓った3
「これから、どうするつもりなんだい?」
おもむろに、アークレがそう尋ねる。
彼女は自分のティーカップを持ってきており、淹れたそれを何度か啜っていた。
と、ルイスはアークレの指先が僅かに震えていることに気付く。
気丈に振る舞ってくれてこそいるが、長年慣れ親しんだ光景が一瞬にして消失してしまったのだ。
更には不幸と不吉の象徴と云われる天使を―――遺体とは言えそれも目にしてしまっている。
そんなものを見て平常心でいられる方がどうかしていると、ルイスは人知れず眉を顰める。
「…この件は軍が関わっています。しかも事情を知れば貴方も無事では済まない…そう言ったレベルの事態です」
驚く様子もなく、静かに耳を貸すアークレ。
生存者であるルイスと老人―――トラストも軍人であったことから何となく察していたのだろうと、ルイスは推測する。
彼もまた、静かに話を続ける。
「ただ、貴方にこれだけは言っておきたい……あの天使の子には何の罪もないことと、エスタは今も無事で何処かに身を潜めているということです」
「エスタが…?」
彼女の言葉に、ルイスは小さく頷く。
真実全ては話さない。
だが、これくらいは答えても良いはずだ。
そう思いながらルイスはハーブティーを一口飲み込む。
「アイツもまた何の罪もない人間なのに…事態に巻き込まれたために苛酷な宿命を背負ってしまったんです…それで逃げてしまった…」
ルイスの曖昧な言葉運びに、アークレは沈黙したまま。
ハーブティーの湯気だけがゆっくりと立ち昇っていく。
「だから…俺はエスタを探しに行きます。けどそれは軍人としてではなく、友人として。何年掛かってでも絶対に見つけて…そして此処に必ず戻ってきます」
貴方の美味しい料理をもう一度食べさせるために。
ルイスがそう付け足すと、アークレは目を丸くした後、大声で笑った。
「あらあら、そうかい……それじゃあ何が何でもあたしは元気に待ってないとだねえ」
彼女の明るい笑顔に、ルイスもつられる形で笑みを零す。
「あ、それと…もう一つだけ頼みを聞いてくれませんか?」
この頼みばかりは了承してくれるか悩ましいところではあった。
だが、こんなにも明るいアークレにだからこそ。
彼女にしか頼めない内容だと、ルイスは思い口を開いた。
「―――あの天使の子を、此処に埋葬させて貰えませんか?」
「ああ、良いさね」
「え?」
アークレの意外な快諾に、今度はルイスが目を丸くした。
と、彼女はその笑顔に僅かな影を落とし、答える。
「天使は不幸の象徴、その灰に触るだけで呪われる……なんて小さい頃から聞いてはいたけどもね、あの子には思ってたほどそんな感じはしないんだよ…」
そう話しながらおもむろにアークレは目を細める。
二人が話す『天使の子』は今、事務室のソファーに寝かせている。
傷一つ付いていない綺麗な顔の彼女はまるで眠っているようで。
今にも目を覚ましてしまいそうにアークレには見えた。
全く恐怖を抱かないかと言えば、嘘になる。
だが、それよりもアークレの目に留まったのは、彼女の異形な翼にではなく。
彼女の顔に残っていた涙の跡だった。
「……花壇の何にも植えてない隅で良ければね。けどこんだけ賑やかな場所だとあの子も寂しい思いはしないだろ」
そう言うとアークレは自慢の中庭を一瞥しながら微笑む。
「そうですね…」
アークレは少女の正体について、一切聞こうとしないでくれた。
軍の機密に関わることは重々承知なのであろうが。
少女がエスタと関わりがあることも察しているのに、それについても彼女は聞かないでくれたのだ。
「ありがとうございます」
ルイスはアークレへそう言うと深く頭を下げた。




