表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/104

第九幕~青年は未来を誓った2









 アークレとしてはこの異常事態について、事実を知っているのならば教えてほしかった。

 長年生きてきた灰の町(ドガルタ)がこんなにも鮮やかで不気味な青空になった理由も。

 仲の良かった人たちも、思い出も、痕跡も、何もかも消え去ってしまったこの状況を。

 例え残酷な真実が待っていたとしても、一刻も早く知りたかった。

 だが、この青天にも負けない真っ直ぐなルイスの双眸を見て―――この絶望的な状況下でも心折れないでいる強い決意に、アークレもまた覚悟を決めた。


「…解ったよ、これ以上は何も聞かないさ。早く乗りな…異変に気付いたのはあたしらだけじゃないだろうからね」


 そう言うとアークレは本当にそれ以上何も言わず、ルイスたちを車に乗せた。

 見知らぬ老人も、天使の少女も一緒に。

 



 それから間もなくして、町があった場所へ沢山の人やら車やらが駆け付ける。

 その中には絶句する隣町の軍人や、跡形もなく消えた家族に涙さえ出ないでいる者たちの姿があった。

 前例のない、驚愕の事態に人々が募り始める中。

 ルイスたちを乗せた車だけが、その場所から遠ざかる。

 元来た道を振り返る気力もなく、ルイスは急激に襲い始めた疲労感に深く息を吐いた。

 瞼を閉じれば疼くような頭痛と共に、エスタの歪んだ顔と涙を浮かべた姿が蘇る。

 最後に見せた、声なき言葉が、頭から離れない。


『―――待ってるよ』


 本心を押し殺し、最後の最後まで「逃げて」と友人を想っていた親友の馬鹿さ加減に、もう苦笑することも出来ない。

 してはいけない。 

 そう思っているうちに、ルイスは疲労からか眠りについた。

 工場に辿り着くまでの短い時間であったが、ルイスにとっては有り難いくらいにようやく何も考えなくて済む時間であった。




 アークレの製粉工場は灰の町(ドガルタ)から外れている場所にあったため、消失から逃れてはいた。

 しかし、あの騒動による影響から工場内の機械類は一切動いておらず、静寂としていた。


「―――もう大丈夫なのかい…?」


 工場内、中庭。

 機械や備品ばかりの場内とは違い、そこには色取り取りの花や野菜が植えられ丁寧に育てられている。

 小さな楽園のようなその場所に、ルイスはいた。


「はい、ご心配をお掛けしました」


 そう言ってアークレに微笑み掛けるルイス。

 車内で一睡した彼はその後、疲労により顔色が優れないことからアークレに半ば強制的に休憩させられていた。

 作業員用の仮眠室で休んでいたルイスは、窓から見えたこの場所へおもむろに足を運んだところだった。


「ご馳走になっていた料理に使われていたのはこの野菜たちだったんですね。どうりでどれも新鮮で美味しかったわけだ」


 そんな笑顔を見せるルイスに対し、アークレの表情は浮かない。

 彼女は小さく吐息を洩らし、言った。


「無理に愛想笑いなんかしなくたって良いよ。色々とあったんだろ? 今は自分の心を大事にしてやりなよ」


 アークレの言葉に驚き、ルイスは目を見開く。

 彼自身、気付いてもいなかった。

 自分が無意識に、無理して笑っている。ということに。


「いえ、そんなつもりは…」

「…まあ、あんな状況を見りゃあ誰だって驚き通り越して冷静にもなっちゃうもんかもしれないけどねえ」


 アークレはそう言うと先ほどから持っていたトレイを近くにあったテーブルへと置く。

 それから手際よくトレイに乗せていたポットのお茶をカップへと注いだ。


「ハーブティーを淹れてきたよ。落ち着くだろうから飲みなさい」


 カップを手渡され、ルイスは礼を言うと少しばかり口を付ける。


「あつっ…」


 温かすぎる湯気にルイスは笑顔を解き、ハーブティーへと静かに息を吹きかける。

 口内に広がる爽やかな香りと、熱。

 少しだけ心が安らいだように思えた。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ