第八幕~青年は絶望を味わった7
「その子はお前が…エスタが最期まで守ろうとしていた子だ! もしその子に手を出すつもりなら…俺はお前を許さないッ!」
鍔ぜり合う先―――それは剣を拾い無我夢中で飛び込んで来たルイスだった。
脚の怪我どころか全身が痛む状態であったが、それでもルイスは彼を止めたかった。
これが最期になろうとも、親友に誓った言葉を守りたかったのだ。
「面倒な人間め…何より貴様を見ていると不快で不快で堪らない……!」
エスタは明らかな苛立ちを見せ始める。
と、彼は受け止めていた剣を容易く跳ね返した。
弾かれたルイスは勢いが余り、後方へと倒れ込む。
「いっそのこと、不快な貴様らまとめてこの一帯全て…そう、全て消し去ってやる!」
苛立ちを隠さずそう言うと、エスタはルイスの懐に飛び込み、彼を蹴り飛ばした。
まるでゴム玉のようにルイスは後方へ吹き飛んでいく。
肋骨が何本か折れた激痛と共に、彼は血反吐で地面を汚した。
呼吸をすることさえ苦痛のルイス。
と、その傍らへ今度はミラースが転がってくる。
無造作な扱いを受けて飛んできた少女を、ルイスは咄嗟に、庇うようにして抱きとめた。
「うぐぁ…!」
痛みにうめき声をあげながらも、彼は必死に、力いっぱいミラ―スを抱きしめた。
「神の化身だからな、せめてもの慈悲をやろう……今ある最大級の力で葬ってやる…!」
エスタの掌に、光の球が生み出されていく。
先程のと同じ、真っ黒な輝きを放つ光。
するとそこへ、突如トラストがルイスを庇うように駆け寄ってきた。
杖を地面に投げ捨て、彼はルイスの身体を起こそうとする。
「何やってるんですか、逃げて下さい…アグオン将軍…!」
ルイスはそう叫びながら、トラストを逃がすべく部下たちの姿を探す。
しかし彼らの姿はなく、既に消されたか逃げ出してしまったようだった。
トラスト自身に逃げ出す気は毛頭なく、覚悟を決めた様子でいた。
ただし、それは『最期の』ではない。
「最早何処にも逃げ場はない! あるとすれば、それは奇跡のみだ!」
そう言うとトラストはルイスに肩を貸し、無理やり上体だけでも起こす。
と、二人の目前には先ほどとは比べ物にならない輝きを発するエスタがいた。
彼の掌で蠢く光球は、まるで得体の知れない生物にも見えた。
「叫ぶんだ…彼の名を呼ぶんだ! 何でも良い、語り掛けるんだ!」
最期まで最早秒読みという中で、トラストがそう叫ぶ。
唐突な台詞にルイスはその意図が解らず困惑しそうになる。
が、困惑している暇などもうない。
ルイスは言われた通り、一心不乱に彼の名を―――彼を呼んだ。
「エスタ―――俺は…お前が例え、どんなことになってもやっぱ親友でいたいんだよ…答えろよ、お前はどうなんだよ……エスタァァァッ!!」
ルイスの叫び声は次の瞬間。
暗黒の光の中へと消えていく。
先ほど以上の、大きな眩い閃光は瞬く間に周辺を―――更にはドガルタの街全体にまで広がり、一瞬にして呑み込んでいった。




