第八幕~青年は絶望を味わった5
最新兵器の威力は紛れもなく悍ましいものであったはずだった。
先の内戦で建物を容易く崩壊するほどの破壊兵器を改良したものだ。
人の身体など、容易く破壊できるはずだったのだ。
―――しかし。
「…以前の思念体はこの兵器に心底怯えていたようだが…こうもつまらないものだったとはな」
黒煙から姿を現したエスタは、恐ろしいほどに無傷であった。
かすり傷一つさえ、ついていなかったのだ。
流石の事態に言葉を失う軍の者たち。
それはイグバーンでさえ、同じだった。
「これならば私一人で、今直ぐにでも世界を終わらせることが出来るだろうな…!」
エスタは自身の強さを確信したのか、更に勝ち誇った笑みを浮かべる。
と、同時に。彼の言葉を聞いたイグバーンとトラストは目を見開いた。
刹那の中で頭を回転させ、辿り着いた推測に二人は心を震わせる。
「……そういうことかよ、くそったれ…」
人知れずそう洩らし、イグバーンはもう一度銃を撃ち込もうと弾を補充する。
が、彼が銃口を向けるより先に、エスタが動いた。
背中に翼の様な黒い光を帯びさせ、その輝きは彼を中心に包み込むようにゆっくりと取り囲んでいた兵たちや兵器を呑み込んでいく。
「な、なんだあの黒い光…!」
「こっちに来るぞ!」
見たこともない禍々しい黒い輝き。
それへと勇ましく呑み込まれる者もいれば、恐れ慄き逃れようとする者もいる。
「なんだこれはッ!!」
「動け、ない…!!」
「わからない、前も、後ろも…なんなんだ…!?」
程なく、黒い光に取り込まれた者たちの悲鳴が、中から聞こえてきた。
その叫び声が更に恐怖を駆り立てていく。
ルイスはその光景を、呆然と静観している。
「あれは…逃げた方が良い…!」
傍にいたトラストは知識と直感から脅威を感じ、ルイスの腕を引く。
しかし、怪我人であるトラストとルイスは思うように動けず。
そうこうとしている間にも黒い光は人の歩く速さでゆっくりと静かに近付いてくる。
黒曜石のような、怪しくも魅惑的に輝くそれは、まるで誘っているかのようにも見えてしまう。
無意識にルイスは手を伸ばそうとした。
その向こう側に、エスタがいつもの笑顔で待っているような気がしたからだ。
「誰でもいい、じいさんとルイスを死ぬ気で守れ!!」
「はい!」
と、光の向こう側から聞こえてきた叫びに、ルイスの手は止まる。
次の瞬間、命令を聞いた優秀な部下たちが身を挺し、ルイスとトラストを投げ飛ばした。
咄嗟の判断だったとはいえ、急に投げ飛ばされた二人は再度横転し、倒れ込んだ。
「―――いいか、最初で最後に信じてやるから…だから絶対にコイツを何とかしろッ!!」
イグバーンの声だった。
それを耳にしたルイスは横転するも直ぐに顔を上げた。
「将軍…!」
次の瞬間。
光はまるで霧が晴れるかのように、静かに収束し、消える。
そして、光に呑み込まれていたはずの兵たちも、消えてしまっていた。




