第八幕~青年は絶望を味わった4
「黒鷹様より授かりし力を使用するに、天使は生物に宿りし活力―――生気を糧とする。が、流石の天使もそれを生み出すことは不可能…しかも脆弱な餓鬼の生気では不足も不足……故に私は生気を得るべく、手短な人間どもを襲った」
しかし人間の生気も微弱であるため、蓄えるに時間と手間を要したが。
エスタはそう付け足す。
そんな彼の言葉によって、今一つの事件が解決したこととなる。
ここ数日、ドガルタで起きていた連続無差別襲撃事件―――通称、天使の再誕。
無差別に襲われた人間たちは皆、意識不明の昏睡状態となっていた。
その原因はこの人格がミラ―スの意識を奪い、被害者たちの生気を奪っていたからだった。
「本来はそうして蓄えた力で惰弱な思念体から身体を奪い取る算段であったが…愚かな人間どものお陰で上手くこの身体に乗り移り、奪うことが出来たというわけだ」
エスタは両手を広げ、まるで舞台に立つ役者のような振る舞いで答えた。
彼の声で高らかに笑う様に、ルイスは絶望以上の怒りを覚える。
痛みも、悲しみも、後悔も。
全てを足蹴にされたように思えてならなかった。
「とどのつまり、俺たちはお前の良いように動かされ目覚めさせちまったってことか…?」
「動かしたつもりはない。貴様らが勝手に愚かに踊ってくれただけのこと」
「どっちにしろ笑えねえよ…予言が当たっちまったんだからな―――」
そう言った直後。
イグバーンは躊躇いなく引き金を引いた。
重い銃声が何度も響き渡り、その間に彼は叫ぶ。
「お前ら迷わず続け!! 駐屯兵は一般民を避難しろっ!!」
冷静かつ的確に、部下たちへ指示を出す。
と、彼の怒号でようやく恐怖心から我に返った兵たちが動き出す。
足が重く震えてしまうほどの威圧感。
声さえ出なくなるほどの恐怖感。
それでも彼らは上官の命を守るべく、銃を撃ち、一般民を避難に促す。
「あ、あ…」
「助けて…許して……!」
「天使が、ああ…天使がっ…!」
悲鳴、嗚咽、謝罪、懇願、絶望。
ようやく逃げ出す一般民たちはまさに阿鼻叫喚の様であった。
灰の町で、前代未聞の状況だった。
ハチの巣になるかとという勢いで、迷いなく射撃を続ける軍。
中身は別人格とはいえ、外見がエスタであることに思わずルイスは声を上げる。
「エスタ…!」
それがもうエスタでないことは解ってこそいたが、それでも未だ納得できない迷いが、彼の動きを惑わせる。
と、弾切れとなり止んでいく銃声の中。
「―――本当に愚かな人間どもだ。白猿が与えた文明程度にこの私が負けるわけがない」
中心にいた当人は風穴一つ、空いた様子はなく。
彼を覆う、薄く輝く幕の様なものがそれらを全て防いだようであった。
天使の力を使ったのだろうと、誰もが即座に察し、顔面蒼白となっていく。
「まだだ! ありったけの兵器撃ち込めばそのうち疲弊するはずだッ!」
そう檄を飛ばすイグバーン。
彼らには未だ対天使用の最新兵器があり、使用してはいなかった。
しかし、エスタであったときとは違い、彼に疲労の色は一切ない。
平然とした様子でほくそ笑む。
「それはこの身体にいた思念体が力の扱い方も知らない愚者だったからだ。本来はこの程度で疲弊などするわけがない…」
絶望を与え、それを愉しむべく語るエスタ。
だが、イグバーンは彼の言葉を信じず、装填した銃でなおも打ち続ける。
「早く兵器を使えッ!!」
「充填完了してます!」
「なら迷うな、撃てッ!!」
容赦なく、一斉に、様々な銃弾がエスタを狙う。
更には最新兵器まで登場し、発射された。
大筒の銃口から発射された一撃は轟音と共に爆発し、爆風が煙を巻き起こす。
「エスタ…エスタッ!!」
ルイスは無意識に立ち上がり、彼へと近付こうとした。
が、それを即座にトラストが止め、押さえつけられた。
「怪我をしている君が行ったところで何になる…!」
そう言って制止を促すトラスト自身も、先ほどの攻撃により怪我を負っていた。
それでも今近付けば確実に命を落とすだろうルイスを、必死に止めていた。
今の彼らには、それしか出来ないでいた。




