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第八幕~青年は絶望を味わった3









「まさ、か…ミラ―スちゃんに天使人格が、宿ってたなんて……」


 養製天使(ようせいてんし)は、その全てが天使の外見を表し、そして大半が天使人格を宿していた。

 ただし例外もあり、天使人格を宿していないとされた被験者も少なからずいた。

 更に天使人格化する確率も100%というわけではなかった。

 ミラ―スの性格や言動も相まって、ルイスは見誤ってしまったのだ。

 彼女に天使人格が宿っているかもしれない、という確率を。


「脆弱な餓鬼は人の目を欺くには良い隠れ蓑だった。時に意識を奪い、時に上手く囁き…思うままに動いてくれたからな」


 彼が浮かべる笑みはエスタが見せていたそれとは程遠く。

 また、ミラ―スとは程遠い狡猾さに、ルイスは眩暈にも似た気持ち悪さを抱いた。





「まさか嬢ちゃんの天使人格が灰となって青年の身体に乗り移ったってことか? 天使が天使の身体を奪うとは……前例のない冗談だな…」


 と、そう言いながら姿を現すイグバーン。

 彼は先ほどの爆風に吹き飛ばされていたらしく、額からは鮮血が流れている。

 しかし、それでも飄々とした態度は崩さず、持っていた銃をエスタに向けた。


「人間には理解出来ないだろうな…この身体がそれだけ素晴らしいものだということを」

 

 口角を吊り上げ、エスタは語る。

 傲慢な語り口で、紅の双眸を光らせ、曇天を仰ぐように語る。


「元より私は、脆弱な餓鬼にこそ宿ってしまったが故に…それに替わる最高の身体を手に入れるべく、探し求めていた」


 天使の呪いにも屈しない気丈な精神。

 天使の力にも耐え得ることの出来る肉体。

 そうして各地を渡り歩いた結果、ようやく辿り着いた理想の身体が、エスタだった。

 エスタを奪った人格はそう語る。


「しかし誤算だったのはその身体が既に惰弱な思念体によって奪われていたことだ……だから私はその身体を更に奪うべく、密かに力を蓄えることにした」


 ミラ―スを体の良い隠れ蓑にしながら。

 正体がバレないようひっそりと。

 そうして、夜な夜な彼女は意識を奪われ、人々を襲っていた。


「……待て、襲ったということはもしや―――ッ!?」


 淡々と語り続けていたエスタへ、努めて冷静にトラストは尋ねた。つもりだった。

 だが、次の瞬間。

 トラストは何かに弾かれるように吹き飛ばされた。

 それにより周囲に居た部下や、背後で倒れたままだったルイスまで巻き込まれ横転する。


「じいさんッ!!」

「白猿の傀儡如きが私の話しを邪魔するな―――しかし、この身体を容易く奪う手助けをした情けだ。特別に教えてやろう…」


 横暴にそう言い、そしてまた語り始めるエスタ。

 今まで何人もの天使人格を見てきたルイスたちであったが、この人格はこれまでのどの人格とも違っていた。

 出会った中で最も冷酷で、暴力的で、凶悪に思えた。

 ミラースもまた、これまでに前例のない異例の天使人格が宿っていたようだった。








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