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第八幕~青年は絶望を味わった2









「―――間違ってはいない」


 聞きなれた青年の声が、ルイスの耳にも届いた。


「―――天使は呪いだ。神に与えられし力を妬んだ人間により滅ぼされた哀れな亡霊であり…復讐、破滅、絶望という言葉でのみ生を実感する…人間への呪いだ……」


 直後。思わず目を塞いでしまうほどの眩い閃光が起こる。

 それから間もなくして爆発にも近い突風が巻き起こった。

 幸いにもルイスの視界はトラストの法衣によって守られており、その両端から後方へ吹き飛ばされていく兵士たちが見えた。


「な、何事だッ…!?」

「将軍っ!」

「お下がりください、将軍…!」


 背後の発光へ振り返ろうとするトラストだったが、自身を杖で支えるだけで精一杯となっている。

 彼を守るべく数人の部下が庇っているほどだ。

 爆風とも言うべきその光は、まるで先ほど天使の能力を発揮させた、あの青年のものと同じ。

 突然の現象に、ルイスは不穏な予感を抱く。


「まさか…」


 爆風と閃光が、徐々に治まっていく。

 そこで巻き込まれた者たちはようやく、その元凶を目の当たりにすることが出来た。

 ルイスを拘束していた兵たちも事態の緊急性を察し、各々武器を取り出し構え始める。

 それにより解放されることとなったルイスもまた、皆と同じく前方の人物を見つめた。


「―――エスタ」


 そこには、眩い光に包まれているエスタがいた。

 彼は横たわっていたその身体を、ゆっくりと起き上がらせる。

 そして、静かに紅く輝く瞳を見開いた。


「ようやく手に入れた…フフ……フフフ…!」


 そう言って笑い出すエスタ。

 確かに彼は息絶えたはずだった。

 ルイス自身が、その腕で、感触で確認していた。

 では生き返ったと言うのか。


「……違う、エスタじゃない…」


 ルイスは瞬時に悟る。

 今目前にいる青年は、エスタであってエスタではないことを。


「まさかこんなにも楽にこの身体を手に入れられるとはな…」


 口調や雰囲気からもそれは明白であった。

 先ほどのエスタとは全く違う。

 まるで別人がそこにいるかのようだった。

 そう、その現象は間違いなく―――。


「もしや、天使人格化…だとっ……!?」


 ルイスの言葉を聞いていたトラストが叫ぶ。


「既に天使人格化していたはずじゃなかったのか…!?」

「そのはず、です…!」


 トラストの視線とぶつかり、ルイスは眉を顰めた。





 間違いなくエスタは、自分は天使人格であると言っていた。

 そして『天使の呪い』から生まれた人格は、一人の身体に一つしか宿らないという研究結果が出ていた。

 複数の人格が存在する事例は、研究の第一人者であるトラストでさえ見たことも聞いたこともなかった。

 と、驚愕し騒然となっていた者たちへ、エスタは笑い声を上げながら答える。


「その驚愕し困惑し絶句した様…本当に人間は愚かで愉快だな…」

 

 勝ち誇ったように高圧的で、見下すように歪な笑みを見せるエスタ。

 エスタとは全く正反対の人格。


「手向けに教えてやろう―――私はな、そこの脆弱な人間に燻っていた…お前たちが天使人格と呼ぶ思念体だ」


 彼はそう言うと、傍らに倒れている少女を指した。

 既に絶命したはずの養製天使(ようせいてんし)の少女―――ミラ―スだった。









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