第七幕~青年は天使を失った6
取り囲む兵たちから逃れ、廃工場から外。
更にその奥の路地裏へと入っていくルイス。
この道はほぼ一本道であり、その先を抜ければ居住区へと辿り着く。
建物が密集するそこへさえ辿り着ければまだ逃げ延びられる可能性はある。
ルイスはそう信じて、彼らが走っただろう道を追いかける。
「―――本当に、君は彼と親友だと思えたのか…?」
と、おもむろにそう口を開いたのはトラストだった。
トラストは羽交い締めにされたまま、されるがままルイスに同行していた。
だが、それが『あえて』であることにルイスは気付いていた。
彼の興味の対象が、あくまでも“天使”にしかないことを知っていたからだ。
「…生憎俺はお人好しじゃないんで…親友にじゃなきゃ、こんな真似してませんよ……」
唐突なトラストの質問を苛々しく思いながらも、ルイスは答える。
痛みで溢れ出る汗。それを拭う余裕すら今の彼にはない。
「しかし…君を騙しているという公算も―――」
「だとしたら! もっと上手く騙して欲しかった…ただ純粋にソイツになりたくて日記読み漁って、モロばれなくせに必死に演じてる天使とか…愚か過ぎでしょ…」
苛立ちと相まって吐き出されるルイスの本心。
天使を良く知るトラストにだからこそ話せる本音を、彼はぶつけていく。
「それに俺が何度怪しい言動をしてみせても、結局は信じるって…逃げも隠れもしなかった。あんな天使、今まで出会ったことなかった…!」
声を荒げ、その憤りと共に一歩、また一歩と力強く歩くルイス。
いつの間にかトラストの肩を借り、彼の力を借りて歩いていることにすら気付くことはない。
「しまいには俺が親友だって言ったら『ありがとう』って泣いたんですよ……あんなの見せられたらもう…天使とか幼馴染とか関係ないです…もう、ただの親友ですよ」
そう話し、ルイスは思わず苦笑を洩らした。
一方で彼の話に耳を傾けていたトラストは、驚きに目を大きくさせる。
「まさか…その天使は対話が可能なのか…対等に、話し合うことが…?」
「天使人格だと、彼は言いました……つまり、天使とだって分かり合えたんです、友達になれたんです…本当はきっと…!」
ルイスの言葉に、今度はトラストの方が足取りを重くさせる。
動揺を隠せず、思わず足を止めてしまったほどだ。
「ちょ、ちょっと…」
「そんな、ことが…あるはずない……『天使の呪い』は憎悪と憤怒の結晶…その感情が消えることは絶対にないはず…彼らが許すなど…不可能なはず……」
トラストはブツブツと独り言を繰り返し始め、ルイスの声さえ耳に入っていないようだった。
彼の言葉の意味をルイスは理解出来なかったが、理解するつもりもなかった。
トラストは天使研究の第一人者だ。
当然彼にしか知り得ない知識や情報があるだろうし、それを今ご教授される余裕はルイスにはなかった。
「アグオン将軍―――」
すっかり立ち止まってしまった人質をどうしたものかと頭を悩ませた、その時。
遠くから無情な銃声が聞こえてきた。
ルイスの脳裏に過ったのは、エスタとミラ―スの顔だった。
「ま、さか……」
そう思った瞬間、ルイスはトラストをその場に置き捨て走った。
痛みも耐え、まとわりつく汗も拭わず。
ただひたすらに、がむしゃらに走った。




