第六幕~青年は親友を信じた9
「ま、大体の天使は見りゃわかるから不要なデータでもあったんだが……まさかこんな形でそのネタが役に立つとは思わなかったぜ」
煙草を吹かし、顎下の無精ひげを擦るイグバーン。
「しっかし皮肉なもんだよなあ。灰になってまでも呪うとする自分たちも実は、崇める黒鷹から厄介な呪いを授けられてんだからな」
「ふざけないで!」
彼の台詞に耐え切れず、声を荒げるミラ―ス。
養製天使となってしまっている彼女にとって、その台詞は侮辱でしか聞こえなくなっているからだ。
彼女は足下にあったガラス片を拾い、その切っ先をイグバーンへと向けた。
が、彼はか弱い少女の抵抗に眉一つ上げず。
指をパチンと鳴らした。
「ふざけてなんかないぞ…俺はいつだって大真面目だからな」
直後、何処に隠れていたのかと疑うほどの兵士たちが続々と現れ始める。
武器を手に駆けつけた彼らの数は数十人以上。
既にこの廃工場外も取り囲まれていると思われた。
挑発的なイグバーンの語りはその時間稼ぎだったのだ。
最早、エスタとミラースに逃げ場はなくなっていた。
「酷い…酷すぎるよ!」
兵士たちは一斉に銃剣を構え、エスタとミラースにその銃口を突きつける。
中にはエスタも見たことのない重火器を持つ軍人もいた。
「対天使用に開発された最新式兵器だ。いくら再生能力が高い天使でも一瞬で頭と身体がおさらばしちまう優れもんでな…動かない方が身のためだ」
どうにもならないくらい追い詰められた状況。
ミラースは絶望し、顔はみるみるうちに青ざめていく。
持っていたガラス片を落とし、その場に崩れ落ちる。
悔しさと憤り、悲しみに彼女の瞳には、大粒の涙が溢れ出ていた。
どうして、こんな事態になっちゃったんだろう。
こんな状況を生み出したのは誰だ。
誰のせいでこんなことになった。
じゃあ、どうすればよかったんだろう。
いつから、自分の運命は崩れてしまったのか。
もう、私は助からないんだ。
ミラ―スはそう自問自答し、自身の未来を諦めていく。
直後、その涙が地面に零れ落ちたと同時に、少女の表情は無となった。
「やっと心折れてくれたか。今度こそ、ちゃんと連行させてくれよ?」
降参とばかりに項垂れてしまったミラ―スを見下ろし、イグバーンはため息をつく。
彼は早々に部下へ合図を送り、命令を下す。
「早く連れて行け―――」
が、突如イグバーンはその手を止めた。
崩れ落ちる二人の天使の前に、一人の青年が、対立を意味するべく立っていたからだ。
「おいおい…庇いたい気持ちは察するが、もう積みなんだよ。だから……」
イグバーンがそう言うも、青年はその道を退こうとしない。
真っ直ぐ、曇りのない瞳で、上司である彼を睨んでいた。




