第六幕~青年は親友を信じた8
「お嬢ちゃん、勘違いしているようだがな…俺らの目的ははなっからそこの青年だ。そいつは天使人格化まで至ってないお嬢ちゃんよりもヤバい奴なもんでな」
彼に説明されるまでもなく、ミラ―スもそれは実感していた。
反論が出来ず、彼女は沈黙し下唇を噛みしめる。
「確かに…養製天使の中にはトカゲの尻尾切りの如く、自らの翼や蹄を切り落として外見を誤魔化した奴らもいた」
だがそれはあくまでも一時しのぎの荒業であり、しばらく経てば自己治癒力の高い天使の力で、翼も蹄も自然と再生してしまう。
イグバーンはそう話しつつ、マッチを擦り、煙草に火をつける。
「だがな…そこの青年はそんな前例に全く当てはまらねえ。ずっと人間の姿のままだ。だからこそ、異例であり異常…ルイス君も判断に随分と苦労したようだ」
イグバーンの言葉に顔を顰め、俯くエスタ。
ミラ―スは思わずそんな彼へと視線を向けるが、エスタは視線を合わそうとしない。
それは彼だけではなく、ルイスも同じであった。
誰も、互いに目を合わそうとしない。出来ないでいる。
「じゃあ…どうして…エスタが、天使だって……」
するとイグバーンは待ってましたとばかりに口角を吊り上げる。
昨日、エスタにも見せたほくそ笑んだ、歪な笑顔。
「天使の誰もが引っかかるとっておきの呪文があるんだな、これが」
煙をまき散らしながら、自信満々に告げるイグバーン。
「―――ところで、お嬢ちゃんは自身の信仰する神をなんて呼ぶ?」
唐突の、意図の掴めない謎の質問。
警戒し、困惑しつつも、ミラ―スは自然に答え、その神の名を口にする。
「……黒鷹様」
「そう、それだ」
イグバーンはそう言って、煙草を掴む指先をミラ―スに向ける。
と、彼の質問の意図に気付いたエスタは青白い顔のまま、瞳を大きくさせた。
「まさ、か…」
「察したか青年。まあそうだよな、昨日も似たような質問を俺がしたから」
歪んで吊り上がる口角。
漂う独特の煙の匂い。
前日の匂いが、今と全く同様の光景が、エスタの脳内で蘇る。
「三神について聞かれて…赤猫様、白猿様、黒鷹様って答えた…でも、それだけで―――」
「それについては歴史的背景もあるわけだが…そもそも、邪神にご丁寧に『様』をつける奴はいねえんだよ、普通の『人』ならな」
しかし養製天使となった者たちは、例え人間の人格のままであっても。
邪神であると学んでいるはずの黒鷹を『様』付けしてしまっていた。
それは、『天使の灰』に刷り込まれていた黒鷹神への強い信仰心と言うべきか。
はたまた力を分け与えて貰ったがための無自覚の謝意か。
そして、天使となったが故の運命とも言えた。




