第六幕~青年は親友を信じた7
「だから最後に…これだけは言わせて欲しい―――嘘をついて、騙してごめん…でも、こんな僕と少しでも一緒にいてくれてありがとう、ルイス」
エスタはゆっくりと立ち上がり、ルイスを見つめた。
彼は未だ眉一つ微動だにせず、そのまま立ち尽くしているが。
しかし、今までずっと隠していた、打ち解けなかった真実をようやく話してしまって、エスタは肩の荷が下りたように晴れやかな気持ちになっていく。
(そうか…僕がもう一度会いたかった理由は…きっとこれだったんだ……)
零れ落ちていた涙を強引に拭い、エスタはルイスの前へと歩み寄る。
きっと、もう彼はエスタを『エスタ』として認めてはくれないだろう。
それでも、『親友』であった彼へ最後に挨拶くらいはしておきたい。
エスタはそう思った。
「もう会えないと思うけど……さようなら」
エスタは深く、一礼をする。
そして、エスタは静かに踵を返した。
「もう大丈夫だよ、行こうミラース」
ミラースを横切り、工場の出入り口を目指す。
地理的に考えてこの廃工場から道なりに突っ切れば、街の居住区へと出られる。
そうすれば後は、民家に隠れながら軍から逃げるしかない。
エスタはそう考えながら、歩き出す。
迷いがなくなった。と、言えば嘘になるような顔を浮かべて。
「エスタ……」
あっさりと別れを告げ去ろうとするエスタに戸惑いを隠せないミラース。
彼女としては疑わしい彼と一緒に居ることは疑問であったが、すんなり去ってしまうのも後ろ髪を引かれる思いでいた。
とは言え、急ぐように進むエスタに置いて行かれるわけにもいかず。
立ち尽くしたままのルイスだけを残して廃工場を後にする。
―――はずだった。
場の雰囲気を一発で打ち消す拍手が聞こえてきたのは、その直後だった。
「―――おうおう、熱くも悲しい友情物語…とはな。泣かせてくれるじゃねえか」
低く渋い、聞き覚えのある声。
エスタは顔を青ざめた。
振り返ったその先―――ルイスより遥か後方に立つ男。
イグバーンだった。
彼は壁に出来てあった大穴から姿を現し、力強く拍手をしていた。
更には、目元に手を添える仕草までしてみせた。
「こんな二人を裂くことになるとは…俺も内心痛むところだね~」
そのわざとらしい彼の芝居からは、哀愁や同情と言ったものは微塵も感じられない。
あるのはその裏に見え隠れさせている嘲笑だけ。
と、ミラースは明らかな敵意を示し、顔を歪めながらその翼を広げた。
「どうして此処に…ルイス! ルイスがまた騙した!」
彼女の怒りの矛先はルイスへと向けられる。
が、しかし。
「な、んで…将軍が……」
当のルイスもエスタたちと同様に驚愕した様子でいた。
顔面蒼白としたその表情は流石に演技には見えない。
と、イグバーンは両手をひらひらとさせながら口を開いた。
「おいおい、ルイス君の面子のために言っておくがな…彼が手引きしたわけじゃなくって、俺が彼を勝手に尾行しただけだぞ?」
つまりはルイス君も俺の手の上で踊らされてただけってわけだ。
そう言ってイグバーンは苦笑しながら肩を竦める。
「ま、これでお互いの蟠りもなくなっただろうし、心置きなく連行されてくれるってもんだろ?」
終始付きまとうわざと臭い演技と上っ面の笑顔。
イグバーンの言動に憤りを隠せず、ミラ―スはきつく拳を握る。
湧き上がる絶望に眩暈すら覚え、何度も意識を手放しそうになりながらも、彼女は翼と両手を広げ叫んだ。
「……これ以上エスタを傷つけないで! 連れてくなら私だけ連れてってよ!」
叫びつつ、涙を流すミラ―ス。
彼女の激昂にエスタもルイスも更に驚き、閉口する。
「ミラ―ス…」
だが、怒り心頭するミラ―スを前にしても、イグバーンは怯える様子も怯む素振りも見せず、ため息をつくだけ。
余裕を表すかのように、懐から煙草を取り出した。




