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第六幕~青年は親友を信じた6









 全ての発端はマーディル暦2015年。

 18年前―――エスタの故郷、シューア村での事件から始まった。

 『天使の呪い』と呼ばれる禁忌の灰を兵器に流用したことで起きた惨劇はエスタの両親の命を奪い、故郷をも奪う。

 そしてエスタ自身も『天使の呪い』を取り込んだことにより、まだ幼子でありながら『天使の呪い』に侵されてしまった。

 その後エスタは別の村に住む親戚に引き取られ、そこでルイスと出会った。

 パン屋になる夢、永遠の親友である誓いを交わした仲であったが、ルイスの引越しにより二人は離ればなれになった。

 手紙のやり取りはそれからも行われていたものの、途絶えたのが今から5年前のことになる。





「―――5年前、エスタは落盤事故で命を落とした、と思う…僕がこの身体で目覚めたときには、彼の思念はほとんど無かったから…でもあれは偶然の事故で、僕が手を掛けたわけじゃない。それは本当だよ」


 静かにそう語るエスタ。

 しかし、ルイスは特に反応はせず沈黙したままでいる。

 もうエスタとして見てくれていないのだろうと、エスタは眉を顰める。

 だがそれも無理はないとも、エスタは思っている。

 ここにいるのはエスタの身体を奪った、敵対する天使の人格なのだから。

 ルイスの知っているエスタは、もうどこにもいなかったのだから。


「…本来の天使なら人間への憎悪が晴れるまで、欺いて破滅させたくて騙して絶望させたくてしょうがないんだろうね…その気持ちが全くなくなったと言えば嘘になるから……」


 エスタはおもむろに、正面に立ち続けるルイスを一瞥する。

 その表情は決して晴れやかなものではない。

 僅かに俯かせ、心痛な顔を見せている。

 エスタは再び視線を落とし、話を続けた。


「でも―――それでも僕は『エスタ』になりたかった。生きていた頃のエスタを知ってたから…僕の憎悪なんかちっぽけだと笑い飛ばしちゃうくらいに真っ直ぐで明るくて、とても強い子だったから…」


 言葉を力ませ、それが真実だと強く主張するように語るエスタ。

 

「だから……僕もそうなりたかった。呪いの本能じゃなくて、『エスタ』との約束を守りたいって誓ったんだ」


 だが、エスタの言葉はルイスには届いていないようだった。

 いつの間にか、ルイスの双眸に感情はなくなってしまっていた。

 それに気付いたが、めげずにエスタは語りかけ続け、訴え続ける。

 ミラースは二人のそんな様子を静観し、身体を震わせた。

 眉を顰め堪えたが、涙が一つ零れ落ちていった。





「本当はさ、記憶喪失の設定も考えてはいたんだ。だけどあの日―――君がやって来たあのとき、酷く動揺した反面…凄く嬉しくなったんだ」


 毎日毎日飽きることなく日記を読み返すうちに、エスタはそこに登場する『ルイス』にも、いつしか憧れるようになった。

『エスタ』が最期に会いたいと強く願った親友。

 それは、約束とは関係なく彼個人としても、会いたいと願う人物になっていたのだ。


「誤魔化せるわけないって不安もあったのに…話しているうちにそういうの、全部吹き飛んじゃって。会話することが、嬉しくて、楽しくてさ」


 そう話しながら、エスタの瞳から涙が零れ落ちる。

 堪えようとしても、溢れ出る涙は止まることなくボロボロと落ちていく。


「『エスタに成る』なんて烏滸がましいと思うけど……僕は、ルイスとミラースと一緒だったこの何日間が今までで一番幸せで、一番エスタに成れた気がしたなぁ……」





 記録にはない、記憶にもない、三人で過ごした短い期間。

 泣いて叫んで疑ったりもしたけど、こんなにも先が見えない明日が楽しみだと思ったことはなかった。

 ルイスを、世界でたった一人の親友だと本当に思えた。

 ミラースと共に生活して、まるで妹が出来たみたいだった。

 本当に、嬉しくて楽しくて仕方なかった。








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