第六幕~青年は親友を信じた4
―――しかし、だからこそルイスは直ぐに頷けなかった。
「俺を信じてくれるのは嬉しい……だけど、俺はまだお前を信じるわけにはいかない」
「え…」
こうなってしまった以上、聞かなければいけないことがあった。
確かめなくてはいけないと、ルイスは覚悟を決めて此処にいた。
その結果、どんな衝撃を受けることになろうとも。
「一つだけ…どうしても聞きたいことがあるんだ」
元から曇っていたエスタの表情が、より一層と青ざめていく。
だが、構わずにルイスは言葉を続けた。
疑心と懇願を乗せて、彼を見つめて言った。
「―――お前は本当にエスタなのか…?」
金髪に金の目、やや細身の体格。
久々の再会であったとはいえ、その面影は紛れもない幼馴染のエスタ本人だった。
だからこそ、ルイスは余計に信じたくはなかった。
こんな質問をぶつけたくはなかった。
「な、何を可笑しなこと言ってるの…?」
ルイスの言葉聞き、エスタは明らかな動揺を見せた。
しかし直ぐさま彼は口角を吊り上げ誤魔化す。
困惑をしているフリをしているエスタに、ルイスは眼を細める。
こういった役職に就いている彼にとって、嘘を見抜くことは得意分野だった。
元よりエスタは嘘が下手くそだった。
「あんな離れ業やっておきながら今更嘘つくなよ。でないと…お前をホントに信じられなくなる…」
その言葉が効いたのか、今度は明らかな動揺を見せるエスタ。
しばらくの沈黙後、彼は静かに深く息を吐き出した。
「…そう、だよね」
それから、彼は苦笑を浮かべる。
まるでようやく肩の荷を下ろすかのように。
「……僕が信じていても、僕を信じてもらえないんじゃ…意味がないよね…」
彼の言葉にルイスは俯き、未だ迷った様子を見せる。
一方で事態を理解できていないミラースは、ただ一人困惑した顔を見せていた。
「どういうこと? エスタじゃないってこと? 二人とも説明してよ…!」
困惑に耐え切れず、思わず声を荒げるミラース。
と、ルイスはエスタを一瞥した後、ミラースへと視線を移した。
「天使人格化…軍の研究施設から脱走したミラースちゃんなら判るだろ?」
直後、ミラースは顔を青ざめる。
天使研究施設。
軍が天使の研究と実験を行っていた施設。
ミラ―スはそこから、他の養製天使たち共々脱走した。
かつては同じ人間であったというのに。
望んで天使になりたかったわけではなかったのに。
理不尽に処分されることを知った仲間たちと共に、彼女は命辛々逃げてきたのだ。
そうして、独りになりながらも流れ着いたのがこの灰の町だった。
しかし、彼女はそのことを二人には話していない。
絶対に話してはいけないと言われ、二人にも隠していたことだった。
(やっぱり…判ってたんだ…)
それは、天使について知らないと言っていたルイスが、嘘をついていたという証明でもあった。
ルイスはミラースの正体を、何もかもを知っていたのだ。
判っていて、知らぬふりをして監視していた。
募る疑心とショックにミラースは顔を歪める。
「天使人格化っていうのは……養製天使が何らかの形で死亡することによって『天使の呪い』が生み出した天使人格っていうのに身体を完全に乗っ取られることを言う―――軍が養製天使を処分するに至った原因の一つだ」
「わ、私は…ちゃんと私だよ。天使人格なんてものじゃないよ…!」
ルイスの説明を聞き、ミラ―スは直ぐに慌てて否定する。
疑われるのでは、という不安から咄嗟に出た言葉であったが。
するとルイスは苦笑を浮かべながら「信じるよ」と、即答した。
意外な返答に目を丸くするミラ―ス。
「俺が知る天使人格はもっと狡猾で傲慢で……虚言や謀りは得意分野だ。ミラ―スちゃんは隠し事こそしてたけど嘘をついて騙そうとするきらいは感じられなかった」
そう話すルイスの視線がミラ―スへと向く。
相変わらずの苦笑であるが、何処か先ほどよりも柔らかくなったように見える。
と、ミラ―スは思わず目線を下に逸らした。
「―――けどな、お前は出会ったときから俺にしてみれば矛盾だらけだったんだよな」
ルイスはそう言ってミラ―スからエスタへと視線を移した。
エスタにしてみれば想定外の言葉。
血の気の引いた顔のまま、彼はルイスを見つめる。
と、ルイスは懐から1冊の本を取り出した。
「僕の…日記……?」
それは、エスタの家にあったエスタの日記だった。




