~その、追憶~
私が意思を持ち始めたのは、憑りついた人間に物心がつき始めてからのこと。
憑りつく、とはまるで私が幽霊かのような言い方だが、あながち間違ってもいない。
まだ幼気で童心の少年に、私が抱く憎悪と怒りと絶望を植え付けようとしているのだから。
『天使』と呼ばれている我々にとって、人間の心は余りにも脆弱だ。
ちょっとした甘言で憎悪へと、憤慨へと、絶望へと容易く誘える。
そうして精神をすり減らした人間をときに傀儡とし、ときにその身体を奪い戦う。
ボロボロになったなら再び灰と化し、次の人間へ憑りつけば良い。
これが姿を失い最終手段となった『天使』の戦い方だった。
私が憑りつくこととなった少年も、始めの頃こそ私の感情を受けて随分と陰鬱な性格に落ちていた。
だが、生活環境が変わってから―――親友というものが出来てから、彼は恐ろしい程に変わってしまった。
私がどんなに苦しみを訴えようとも、憎悪で感情を埋め尽くそうとしても。
彼は明るく前向きな思考でけらりと笑い飛ばしてしまった。
自分を見失わないようにか、日記まで付け始めたのだ。
まるで太陽のように熱く温かな少年となってしまったようだ。
私は次第に、そんな彼の心に負けていく。
―――いや、私は知らず知らずのうちに彼を受け入れていたのだ。
どうしてか、私は彼を気に入ってしまったようだった。
人間であるはずの彼を、尊敬してしまっていた。
私はゆっくりと、彼に語り掛ける事を止めた。
呪うことを止めた。
それは自分の根幹にある欲求を抑え続けるようなものだったが、大して苦にはならなかった。
目的を監視にすり替えただけだと、別の私がそう訴えて。
また別の私が、いつかこの人間の心が弱ったそのときに、この身体を奪ってしまえば良いと囁く。
そうやって言い訳を並べ、自分に言い聞かせながら―――。
私は彼の中で眠りにつくこととした。
彼の心が、身体が、命が、風前の灯火となるその日まで。




