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第五幕~青年は事実を知る11









「エスタ、しっかりしてエスタ…!」


 ミラースの呼びかけも届かず、エスタは力無くその場に座り込んでしまった。

 立つ気力さえも、もがれたようだった。

 そんな彼へ、ルイスは口を開こうとする。

 が、それよりも早く、記者だったはずの男が口を開いた。


「それじゃあ約束通り、君にとっておきの情報を教えてあげよう……まず一つ。俺の正体から」


 男はそう言いながらおもむろに胸ポケットから煙草を取り出した。

 店内であるというのも気にせず、それを加えつつ、ライターの火を灯す。

 彼の言葉はそうして、煙と共に吐き出された。


「俺はイグバーン・ベルフュング。軍では大将をやってる。でもって今の担当は天使対策特別部隊という秘密部隊の総指揮官ってところだ」


 ―――天使対策特別部隊。

 秘密部隊と名乗るだけはあり、エスタも聞いたことがない部隊の名だった。

 が、今のエスタはそもそも、男の言葉もまともに入っていない状況に陥っている。

 すると兵士の一人がイグバーンと名乗った男へ物申す。


「ベルフュング将軍…早く連行した方が宜しいのでは…?」


 しかし、彼は兵士の言葉に耳を貸す様子はなく。

 むしろ『邪魔をするな』と言うような顔を見せていた。


「……出たよ、ベルフュング将軍の悪い癖」


 彼の後方にいた一人の部下が、おもむろに隣の同期へとこっそり耳打ちする。

 後方、とは言っても上官である彼の耳にはそうそう届きはしない距離。

 同期の兵士も相づちを返すよう、ため息交じりに囁く。


「先の大戦で尋問官だった将軍の十八番だとか…相手の弱点をわざわざ調べ尽くし、無ければ無理やり作り出す。そしてそれを盾にじわじわと精神をいたぶるっていう最悪の言葉責めってな」

「ダーワンローゼ少尉が今回の任に宛がわれたのも、そのための駒でしかないって話だぜ?」


 全てはこの瞬間のため。

 相手の敵意と抵抗という翼を捥ぐため。

 策略と言う名の戯れだった。

 イグバーンはこの方法でこれまで何人もの敵やスパイを調査し、同時に陥れ、投獄してきた。

 そして今回もそれらと同じ。


「天使対策特別部隊ってのは…ま、簡単に言うとだな。天使についての調査、研究をする部隊だ。昨日も話したろ? 軍は養製天使(人工的に天使)を作り、研究していた…ありゃ真実ってことだ」


 だが、今となってはその天使たちを隠密に抹殺する部隊となっている。

 ため息交じりにイグバーンの口から煙が漏れ出る。


「『天使は破壊と殺りくを好む暴力的な者たちだ』…なんて書いてあるお伽噺もあったが、実際は無邪気なふりしてずる賢い奴らがほとんどだ。そのせいで馬鹿な部下が以前騙されて大脱走喰らってな…俺らはその尻拭いがてら奴らを始末して回ってるってわけだ」


 しかし、狡猾である故に未だ全て捕え切れず、今もひっそりと隠れ潜む養製天使(ようせいてんし)がいるのだという。

 そう話すイグバーンはおもむろにミラ―スを一瞥する。

 視線の合った彼女は思わず羽根を出来る限り畳ませるが、それはもう既に手遅れだということにも気付いていた。

 間もなく、ミラ―スの翼は力無く元の大きさへと戻っていく。





「―――でもって、次のとっておき情報はコイツのことだ」


 話しが切り替わると同時に、イグバーンはルイスの肩を組んだ。

 親しげに。

 いとも容易く。

 昨日、親友だった二人がやっていたのと同じように。


「君の親友ルイス君―――ルイス・ダーワンローゼは俺の部下で、俺と同じく天使対策特別部隊の一員…頼れる期待の星ってやつだな」




 

 『この灰の町に天使が潜んでいる』

 その確率が高いことから、調査のために部隊の一人が派遣された。

 それがルイスであり、彼の本来の任務であったのだ。


「つまりは君たちを監視するのがコイツの役目だったって―――」

「隊長」


 高揚と語るイグバーンの言葉を遮り、ルイスが突如口を開いた。

 ルイスは親友たちに向けていた剣を下ろし、イグバーンを睨むように見つめている。

 巻き上がる煙草の煙。

 イグバーンは彼の肩から腕を放すと「失敬」と笑ってみせた。


「裏切ってた…やっぱり裏切ってたの!?」


 と、声を張り上げたのはミラースだった。

 彼女の憤りはイグバーンと、ルイスに向けられた。

 震える声で、ミラ―スは叫ぶ。


「親友だって言ってたのに…一緒にお喋りして、笑ってたのに……ずっと裏切ってたんだ、ずっと騙してたんだ…ひどい、最低だよ!!」


 込み上げるミラ―スの涙は止まることなく零れ落ちていく。

 だがルイスは表情一つ変えず、眉一つ動かすことなく。

 彼女と、蹲る親友を見つめ続けていた。

 

「ルイスは任務に準じていただけだ。お前らはお情けで着てたコイツの軍服を見るなり逃げ出すべきだったんだよ。まあ…逃げたとて、直ぐにとっ捕まえてたがな」


 そう言うとイグバーンは傍らにいた別の部下へ合図を送る。

 指示を受けた部下たちは改めてエスタとミラースの二人を拘束していく。

 その両手を鉄錠で拘束し、まるで罪人を連行するかのように。


「…将軍。今回は街中…それも一名は町民にも知られている人物ですが、どう説明するつもりですか?」


 部下の一人が僅かに顔を顰めながら尋ねる。

 補佐官の地位に立つ彼としては、早朝とは言え人目に付くような捕縛の仕方は賛成ではなかった。

 世間一般に天使の存在を目撃されては色々と問題になるからだ。

 するとイグバーンは顎下の無精ひげを擦った後、肩を竦める。


「だったら、最近ここいらで賑わせていた連続無差別襲撃事件…その犯人がコイツらだったってことで良いだろ。まあどうせそうなんだろうしな……」


 そう話すイグバーンは突如、ルイスの前で足を止めた。









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