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第五幕~青年は事実を知る10








 一方で店主は兵士からミラースを引き離すことに成功し、彼女の手を強く握った。


「先ずはこっちに…!」


 店主は息を荒くさせながらミラースととりあえず店の二階へ逃げようとした。

 行った後どうするか、までは考えてはいなかった。

 こうなったときを色々考えていたはずなのに、いざとなっては何も浮かんでこない。

 歯痒さと悔しさに店主は一層と眉を顰める。


(いざというとき…そうなったら―――)


 そんなことをふと考えた、次の瞬間だった。


「―――エスタ」





 名前を呼ばれて、エスタは足を止めてしまった。

 いつもの日常で呼ばれてきた名前。

 いつもの日常で呼んでくれていた声が、その背後から聞こえてきた。

 エスタは振り返るのが恐くなった。

 体温が急激に下がっていくようで、身体中が突然震え出した。

 いっそ幻であってくれ。

 そう願うように、荒くなる呼吸を整えることも忘れエスタは振り返る。


「…ル、イス………」


 そこにはいつもの日常で、いつも顔を合わせていた親友がいた。

 今一番会いたくて、今一番会いたくなかった人物。

 彼の顔には喜びも、怒りも、悲しみもない。

 無表情で、冷たい瞳を向ける親友。


「…どうして……」


 捕まっている様子もなく、平然とルイスはエスタの前に立っていた。

 自然と溢れ出た涙が、エスタの頬を伝う。


「…昨日の、言葉は……?」


 信じると誓った親友は、エスタと対立する軍人たちの中にいた。

 彼らと同じく剣を握り、冷酷な眼差しでその切っ先を親友に向けている。

 いつも彼が纏っていた軍服が、今日はいつも以上に映えているようだった。





「エスタ、しっかりしてエスタ…!」


 ミラースの呼びかけも届かず、エスタは力無くその場に座り込んでしまった。

 立つ気力さえも、もがれたようだった。

 そんな彼へ、ルイスは口を開こうとする。

 が、それよりも早く、記者だったはずの男が口を開いた。


「それじゃあ約束通り、君にとっておきの情報を教えてあげよう……まず一つ。俺の正体から」


 男はそう言いながらおもむろに胸ポケットから煙草を取り出した。

 店内であるというのも気にせず、それを加えつつ、ライターの火を灯す。

 彼の言葉はそうして、煙と共に吐き出された。


「俺はイグバーン・ベルフュング。軍では大将をやってる。でもって今の担当は天使対策特別部隊という秘密部隊の総指揮官ってところだ」


 ―――天使対策特別部隊。

 秘密部隊と名乗るだけはあり、エスタも聞いたことがない部隊の名だった。

 が、今のエスタはそもそも、男の言葉もまともに入っていない状況に陥っている。

 すると兵士の一人がイグバーンと名乗った男へ物申す。


「ベルフュング将軍…早く連行した方が宜しいのでは…?」


 しかし、彼は兵士の言葉に耳を貸す様子はなく。

 むしろ『邪魔をするな』と言うような顔を見せていた。


「……出たよ、ベルフュング将軍の悪い癖」


 彼の後方にいた一人の部下が、おもむろに隣の同期へとこっそり耳打ちする。

 後方、とは言っても上官である彼の耳にはそうそう届きはしない距離。

 同期の兵士も相づちを返すよう、ため息交じりに囁く。


「先の大戦で尋問官だった将軍の十八番だとか…相手の弱点をわざわざ調べ尽くし、無ければ無理やり作り出す。そしてそれを盾にじわじわと精神をいたぶるっていう最悪の言葉責めってな」

「ダーワンローゼ少尉が今回の任に宛がわれたのも、そのための駒でしかないって話だぜ?」









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