第五幕~青年は事実を知る3
「ま、伝説を紐解いてくと『天使』も元は大戦の被害者かもしれないが……『天使』自体の厄介さってのは別問題だ。何たって憎悪の余り灰になってまで人を襲ったと言うんだからな」
男はそう言いながら胸ポケットから煙草のケースを取り出す。
が、エスタの顰めた顔に気付き、彼はケースを静かに戻した。
代わりに今度はその指先を顎下へと添えた。
「でもそもそも神様だって天使だって、お伽噺の存在ですよ」
冷静に努めて、エスタはそう反論する。
すると男は口角を吊り上げ、語り続ける。
「そう思うだろ? だがな―――もしその『天使』が人の手で作られたことがある。としたらどうだ?」
直後、エスタとルイスの二人は瞳を見開いた。
「人の手…で…?」
「これは俺が仕入れた情報なんだがな…つい最近まで軍がそういった実験を行っていたらしいんだ」
男の言葉にエスタの表情はみるみるうちに青ざめていく。
天使を人工的に作り出す実験。
一体何のために―――?
と、そんなことを考えていたエスタを制止するかのように、ルイスの掌が男へと伸びる。
「これ以上そんな話を無関係の人間にされても困りますよ」
ルイスの言葉にエスタは慌てて我に返り、思考を止めた。
男の方もルイスの軍服に今気付いたといった素振りで、慌てて両手を挙げて笑ってみせる。
「おっと! これはあくまでも噂の噂……たかが四方山話くらい良いだろ、軍人さん?」
そう言って男は何故かこの話題を止めようとはしなかった。
険しい表情を見せるルイスは、沈黙したまま男を睨み続ける。
と、そんなルイスたちに割って入り、口を開いたのはエスタだった。
「すみません、その話…もうちょっと聞かせてください…!」
先ほどまで嫌悪にも近い様子を見せていたエスタ。
だが今は興味津々と言った気迫を見せ、男へ詰め寄る。
その変化には顔を顰めていたルイスでさえ眼を丸くさせたほどだ。
しかしエスタにとって、男の話はとても重要な内容だったのだ。
(この人の話を聞けば…少しは解るかもしれない。ミラ―スのことも…ルイスのことも……)
その根拠はルイスの反応の悪さにもあったが、エスタ自身が直感的にそう思ったのだ。
男はエスタの異様な食いつきに、半ば嬉しそうに口角を吊り上げる。
それから、懐から取り出した手帳を捲り始めた。
「先ずは旦那方……『シューア村の惨劇』ってのは知ってるか?」
男の言葉にエスタは静かに頭を振る。
「聞いたこと、ないです」
「だろうな」
男の返事にエスタは僅かに眉を顰めるも、話しに耳を傾き続ける。
「18年前まで続いてた先の大戦中に起こった旧国家側唯一にして最悪の勝利―――今や軍の一部と村周辺の人間しか知らん話だ」
現在では旧国家と呼ばれている王族側と、クーデターを起こした軍との長い長い内乱。
その戦禍に巻き込まれたのが、シューア村という辺鄙な片田舎であった。
当時敗色濃厚だった旧国家側が新兵器開発の実験として利用された、と言われているが真実は定かではない。
しかし、恐ろしきはそんな旧国家の最終兵器によってシューア村はほぼ一夜にして壊滅した、という事実だ。
50人程度の村人の中で、生存者は僅か1名という惨劇を生み出してしまったのだ。
男は手帳を片手に、まるでその光景を見てきたかの如く語る。
「なんで…そんなことが…?」
「旧国家側はその兵器にとんでもねえもんを使ったのさ」
「とんでもない、もの…?」
「伝説に謳われてる―――『天使の呪い』ってやつだ」




