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第四幕~青年は疑心を抱く7









「―――そう言えば、エスタはマダム・アークレとどんな話をするんですか? やっぱり俺との思い出話とか…?」


 少しばかりの沈黙が続いた後、ルイスはおもむろにそう口を開いた。


「まさかさ! 日常会話ばっかりで過去の話なんてほとんどしてくれないよ」


 意外な答えにルイスは片眉を上げる。


「そうなんですか?」


 切られたリンゴは鍋の中で丁寧に煮られていく。

 砂糖と共にぐつぐつと煮絡められていくリンゴは先ほどのものとはまた違った甘い匂いを漂わせる。


「あの子ね…出会った頃は楽しそうには見えなかったもの」


 彼女の話によれば。

 出会った当初からエスタは明るく元気な優男ではあったらしい。

 だが、いつもどこか一線引いたところがあり、近所の人間どころかアークレともそこまで親密になろうとはしなかったらしい。

 他愛ない世間話がほとんどで、過去の思い出話など、してくれることはなかったというのだ。


「だからね、ルイス君が来てホントに今のあの子、生き生きしているわ」


 そう話すアークレもまた生き生きとして嬉しそうな顔を見せている。

 本当にエスタのことを我が子のように想ってくれているだろうとルイスは口元を緩ませる。


「まあ、あんなにも嬉しそうな顔されちゃうとルイス君に嫉妬しちゃいそうだけど」

「またまた御冗談を」

「あら、半分は本当さ」


 大きな声で笑ってみせた後、アークレは冷凍室からパイ生地を持ってきた。

 おそらく今日の昼食か夕食用に用意してあったのだろう。

 従業員の楽しみを横取りしてしまったことに少々申し訳なさを感じるルイス。

 そんな彼の心情には気付かず、アークレは淡々と作業をこなす。


「―――でもね、一度だけ…前に昔の話をしてくれたことがあるのよ」


 と、アークレはその手を止めて言った。

 ちょうど、古い煉瓦造りの窯に薪を入れているところだった。

 ルイスは顔を顰めた。

 彼女の表情が、突然曇り始めたからだ。


「昔の話、というのは…?」

 

 直後、工場の機械が煩く轟き始める。

 その音は周囲の物音を掻き消すには充分すぎた。

 アークレの台詞もまた、その騒音により消されてしまう。

 だが、幸いルイスの耳には彼女の言葉が届いていた。

 アークレが語るエスタの話。

 それはルイスも知らない―――幼馴染がお別れした後の過去の話。






 ルイスとエスタは物心ついたときからの付き合いだった。

 何があってもいつも一緒だった。

 しかし、二人が12歳のときにルイスの引越しによって離ればなれになってしまった。

 その後も手紙のやり取りは続けていたが、ある日ぷっつりと連絡が途絶えてしまう。

 そのため、二人は今の今まで連絡しあうことも出来なくなっていたわけだ。

 アークレが話したのは、その頃のエスタの話であった。

 ―――とだけ、今は説明しておこう。









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