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第四幕~青年は疑心を抱く6








 同時刻。

 ドガルタの町外れではちょうど一台のバスが停車した。

 下車した男は真っ直ぐバス停前の工場へと足を向ける。

 工場内では今日も小麦の粉挽き作業が行われていた。

 機械の稼動する煩すぎる音に紛れ、男たちのでかい声がところどころで響いてくる。

 まるで一つの生き物の中にいるかのような圧迫された感覚。

 その中を歩きながら、彼は一人の女性を見つけた。

 そして、その女性と目が合うや否や、彼は手を挙げて笑って見せた。


「お久しぶりです」


 女性は瞳を大きく見開き、急ぎ足で男に駆け寄った。


「あらららっ! ルイスくんじゃないの! どうしたの?」

「ちょっと…マダム・アークレとお話がしたくなって」


 浮かべる爽やかな笑顔。

 だが、アークレはその様子に僅かに顔をしかめた。






 ルイスとアークレの二人は工場の棟と棟の間―――中庭へと移動した。

 機械と排気がむき出しの工場とは打って変わってその庭には大きな花壇があり、色取り取りの植物が咲いている。

 その花一つ一つが丹念に手入れされたからこその美しさがある。

 そしてそれはドガルタでは見なかった光景でもあった。


「エスタはどうしてるの? 元気にしてるかい」

「はい、マダム・アークレ。毎日必死にパンを作っては売ってますよ…ああ、でも一日だけ俺のせいで大変な目に逢いましたけど」


 ルイスとアークレはその場で他愛ない世間話をする。

 ここ何日か起こったこと、エスタと過ごした日々のこと。

 そうした体験談をルイスが面白おかしく話すと、アークレは満面の笑みを浮かべながら聞いていた。

 だが、勿論ミラースの存在については伏せていた。

 天使の女の子を拾った。と、馬鹿正直に話して信じる人など先ずいない。

 適当な嘘を並べること自体はルイスにとっては容易いわけだが。

 その辺りについてはエスタ自身の口から話すべきだと思い、ルイスは敢えて口には出さなかったわけだった。


「…で、一体今日は何の用事に来たんだい?」

「マダム・アークレに会いに」


 冗談はおよしよ、と、アークレは苦笑のような笑みを浮かべる。

 ほほ笑み返すルイスは「すみません」と軽く謝罪した後、先ほどから持っていた篭を差し出した。

 丁寧に被せられた布の中から、真っ赤なリンゴたちが顔を見せた。


「実は酒の件でエスタにちゃんとしたお詫びをしたくて…でも、彼の今の好物も判らないし、だったら貴方の手作り料理が一番喜ぶんじゃないかと思いまして」


 と、アークレは自信たっぷりに胸を叩いた。


「あっはっは、なるほどそーいうことなら任せなさいな。あの子が大好物のアップルパイを作ってあげるわ」

「ありがとうございます」


 そうして二人は早速キッチンへと向かう。

 



 彼女のキッチンを訪問するのは、これで二度目となる。

 食欲旺盛である従業員たちの食事を次々生み出すその戦場は、とてもそうとは思わせないほど綺麗に整頓されている。

 ある意味、エスタのそれよりも綺麗だった。

 その光景からしても彼女の几帳面さが表れている。


「さてと…ちょっくら時間が掛かるから、椅子にでも座っといておくれ」


 アークレにそう促され、ルイスはテーブル傍の椅子に腰を掛ける。

 と、彼女は早速慣れた手付きで料理の仕度を始めた。

 てきぱきとした手際の良さはルイスも驚くほどだ。


「あっという間にあんな美味しい料理が作れるなんて…本当、従業員の方たちが羨ましいですよ」


 ルイスの言葉にアークレは顔を僅かに紅くさせながら「本当にお世辞が上手いんだから」と笑う。

 そうこうとしている間に作業台上では、ルイスが手土産に持ってきたリンゴが並べられていく。

 籠一杯の大量のリンゴ。

 採れたての朝市で購入してきたそれらを、アークレは手際よく切り始めた。

 甘い芳醇な香りがキッチン中に広がっていく。








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