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第四幕~青年は疑心を抱く4








―――マーディル暦2033年、08、21。




 相変わらず暗雲の空が広がる灰の町、ドガルタ。

 早朝であるにも関わらず、それを報せる太陽光は何処にも見当たらない。

 しかし、その明かりを待つ町民は一人もいない。




 今日は昨日とは違い清清しい朝を迎えていたエスタ。

 鳥のさえずりが心地よい目覚ましとなる。

 だが、エスタの表情に晴れやかさはなかった。

 二日酔いが響いているわけではない。

 昨日のミラースの言葉と、そしてルイスの真相が頭から離れなくなっていたのだ。

 考えれば考えるほど眠れなくなってしまい、そのせいでまともに眠れなかった。

 ソファーから起き上がるとエスタは欠伸を一つ漏らし、カーテンを開けた。

 外は相変わらずの暗雲。

 しかしそんな空を眺めている暇があれば、今は少しでも無心で仕事をしていたい。

 それがエスタの思いだった。

 踵を返すと彼は早速キッチンへと向かい、パン作りの準備を始める。

 今日も忙しくなりそうだ。




 それからしばらくして階段から足音が聞こえてきた。

 誰かと推測する必要もない。

 この階段を下りてくる人間は一人しかいない。


「おはよ…」


 瞼を擦りながらミラ―スはそう言う。

 そんな少女へ、エスタは笑みを浮かべた。


「おはよう、ほら、顔洗ってきなよ」

「うん」


 その様子は何処にでもいる少女と変わらない。

 ただ違うのは、彼女には大きな翼がその背にあるということだけ。

 後は何も変わらない。

 だが、彼女はそんな外見のせいで、決して外に出ていけない。

 出れば人々は、町の空が何故曇天でばかりか以上に驚き、軍も慌てて動き出してしまう。

 その後の運命は、想像をするのも耐え難いものとなるだろう。

 しかし、だからといってこの家に閉じ込めておいたまま、というのもエスタは不憫で成らなかった。

 衣服はルイスが上手い事を言って―――故郷の妹に仕送りしたい等と言って―――町娘に買ってもらったため、問題はなかった。

 が、それでもこの先、問題はいくつも出てくるはずだ。

 この偽りの幸せが脆く崩れるよりも先に、彼女を別の幸せへと導いてあげなくてはいけない。

 ふと、エスタはそんなことを思った。


(…そのためには…僕が、なんとかしなくちゃ……!)







 昼。

 パン屋で一番のピークを迎えている時間だった。

 町人たちでごった返す店内にて、慌てふためきながらこなしていくエスタ。

 だが、今日はいつもと客の台詞が違った。


「昨日は大丈夫だったの?」

「二日酔いって…エスタは弱いな~」

「ほら、コレ食べて元気出して?」

「ねえねえ、またルイス君の作ったパン食べたいな。エスタ君のも美味しいけど、ルイス君のも中々だったわよ」


 今まで経営してきた中で、始めてくらいの会話の量であった。

 元々、エスタは町民たちとあまり交わろうとはしなかった。

 仲良くはするが、何処か一線を引いてしまうところがあったのだ。

 しかし、今日はどういうことか。

 親身になってくれる客。

 陽気に語りかけてくる客。

 そんな客たちへ笑顔で答えられている自分がいた。

 いや、今まで気がつかなかっただけなのだ。

 本当は、此処最近から客たちとも楽しく、親身に世間話が出来るようになっていた。

 それは勿論、親友の仲立ちがあったからだ。

 親友が、エスタの心にあった一線を取っ払い、強引ながらも客たちの中に放り込んでくれたのだ。

 だからこそ、今こうして仕事を本当に楽しいと思えるエスタがいる。

 普通に世間話が出来ている自分がいる。

 ただ、ルイスの存在があったために気がつかなかっただけなのだ。

 ルイスのおかげで、こんなにも変われた自分がいるのだ。

 ルイスはやっぱり、エスタにとって親友なのだ。


(やっぱり、コレだけは変わらない…変えちゃいけない…!)









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