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第四幕~青年は疑心を抱く3









 彼は―――ルイスは、そもそも怪しいのだ。

 軍人であり任務で来た、と言いながらも彼が仕事をしている様子は全くない。

 更には任務中だからと言って、軍服を常に着たままでいる。

 宿先は駐屯所の寮という話だが、本当にそこで寝泊りしているのか。

 証拠もない。


(よく考えてみたら…この人、こんなにも怪しいんだ……)


 それはミラ―スにとって、恐怖に近いものだった。

 エスタは彼を信じているかもしれないが、彼女にとってはただの不審人物にしか見えなかったのだ。

 今の平穏が仮初だとしても、少しでも長く続いて欲しい。

 それがミラースの願いであったが、叶わない夢だと、悟ってしまう。


(今の幸せを壊してしまうのは…あたしじゃないかもしれない…)


 責任逃れというわけではない。

 ふと、そんな思いが彼女の頭を過ぎった。


「おいおい、そこにいないで早く手伝ってくれよ。流石に俺一人じゃ無理かも…」

「あ、うん」


 ルイスの視線に気付き、ミラースは慌てて頷くと彼の元へ駆け寄っていく。

 はらりと、彼女も気付かないうちに一枚の羽根が翼から零れ落ちた。

 その白い羽根は、まるでこれからの未来を案じるかのように静かに、そしてゆっくりと落ちていく。








 

 夜。

 今日の売り上げはいつもと同じ、大繁盛であったという結果を示していた。

 レジの金額を計算しながら、エスタの視線はおもむろに店内へと向けられる。

 カーテンによって締め切られたこの店内ではランプの灯りが唯一の頼りだ。

 もとより、この灰の町では昼も夜もランプが大切な明かりであることには代わりないのだが。


「ルイス…」


 エスタはポツリと、呟いた。

 計算をしていたペン先が、自然と止まってしまう。

 二日酔いは何とか醒めたものの、それよりも気になることが出来てしまった。

 脳裏では、ルイスのこれまでの日々と、そしてミラースの言葉が浮かんでは消えていく。


「ルイスが…何かを探っている…?」





 考えたくもないことだ。

 一体何を探っているのか、いや、探ってどうするというのか。

 判らない。

 だから、考えたくはない。

 その先を考えるのが恐い、恐くてたまらない。

 だから、考えたくはない。

 これが平穏から踏み外れる一歩だと、認めてしまうのが恐くてたまらない。

 だから、考えたくはない。




 エスタは頭を抱え、その場に俯いた。

 顔面蒼白とは、まさに今の彼を言う。


「…ルイスが…ルイスが……」


 単なる好奇心だというならば、許そう。

 だが、任務中だからと言っていつも軍服を羽織ったままの彼が、もしも始めから何かを探るためにこの灰の町に―――この家に来たとなれば。

 あの平穏で、幸福と思えた日々は、偽りの日々だったという事になる。


(いやだ…それだけは考えたくない!)

 

 エスタは頭を強く二、三度振ると、近くに置いてあったグラスに手を掛けた。

 予め常備している水差しから水を注ぎ、それを一気に飲み干す。

 ぬるい温度の液体が体内へと染み渡る。


「頼む…この考えが間違いであってくれ……!」


 会計することも忘れ、エスタは必死に。

 何かにすがるように両手を合わせた。

 現在、時刻は深夜を回ったところ。

 ルイスは寮に帰り、ミラースはエスタの寝室で読書中だろう時刻。

 エスタは静寂な空間に独り、ただただ懐中時計の秒針の音を聞いていた。









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