第四幕~青年は疑心を抱く2
寝室に辿り着くと、エスタは崩れるようにベッドに倒れた。
横になり、未だ青い顔を浮かべながら額に手を添える。
「ありがと、もういいよ…後はルイスの手伝いを―――」
「…あ、あのね……」
と、具合が悪い中で聞こえてきたミラ―スの言葉。
このまま直ぐに一階へ戻ると思っていただけに、エスタは思わず目の前で俯く少女に視線を向けた。
「…どうしたの?」
「…あのね…」
暫くはもじもじと指先を弄ばせていただけだったが。
そのうち、覚悟を決めたのか、顔を上げてその大きな瞳をエスタに向けた。
「あのね……ルイスは、友達…なの?」
予想外の質問に、高い声が出てしまう。
「え? 友達だよ…この世でたった一人の大親友さ」
が、エスタは即答し、微笑みを浮かべてみせた。
しかし、ミラ―スの様子は未だ納得していない様子で。
「…も、もしも友達が…何かこっそり、探ろうとしていたら…どうする…?」
「え? 何を言って―――」
「ご、ごめん! 今の、忘れて…」
と、ミラースは踵を返し、急いでその場を立ち去っていった。
まるで逃げるかのように。
残されたエスタは倒れた姿勢のまま、僅かに眉を顰めた。
「何かこっそり、探ろうとして……って―――」
エスタの脳内に翳りが生まれたのは、そのときだった。
(何であんなこと、聞いたんだろう…)
ミラースは階段を降りながら、エスタに質問をしたことで後悔していた。
今の質問はとても悪いものであった。
あれではまるで、ルイスが何かを探りに来ていると疑ってしまっているようなものだ。
(どうしよう…)
頭の中が真っ白になっていく。
後悔しても、しきれない。
だが、ルイスを何処か疑っていることは嘘ではない。
昨夜目撃してしまったあの光景。
こっそりと日記を読んでいたルイスの表情は、親友との思い出に浸り、懐かしんでいるというものではなかったのだ。
まるで、その当時起こった出来事を確認するかのような。
今まで見たルイスの顔とは全く正反対の―――冷たいほどに真面目で鋭い顔をしていたのだ。
それに、ミラ―スは先ほどの彼の言葉も気がかりであった。
『お前のパン作りの師匠は誰だ? 俺のおふくろだろ?』
それは、昨夜丁度読んだ日記から知った内容だ。
しかし、もしかするとルイスもその日記を見たからこそ、そう言い出したのではないだろうか。
思い返せば、二人が思い出話をするときはいつも先にエスタが語って、それに対してルイスが相槌を打つというものだった。
ルイスから思い出を語る、ということは殆ど見たことなかった。
「どうして…?」
募る疑問は、まるで湧き水如く止まることがなくなっていく。
色々なことを考えたせいか、ミラ―スの頭が鈍く痛みを訴え始める。
「もう、今は止めよう…」
ルイスは決して安心して良い相手ではない。
それがミラースの辿り着いた結論だった。
そんなことを考えているうちに、階段を下りてしまった彼女はキッチンへと向かう。
するとそこではルイスが粉塗れになりながら、パン生地と格闘していた。
「久しぶりにやったから…やっぱエスタのようにはいかないな」
そう言ってミラースに笑みを浮かべる。
突然の笑顔に、彼女は慌てながらも口角を吊り上げて返した。




