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第三幕~青年は日常を楽しむ6





 




 重い瞼を開け、ミラースはその場からゆっくりと起き上がった。

 どうやらソファーで眠っていたらしく、更にはその寝相のせいで床の上で眠っていたようだった。

 暗がりの中、欠伸を漏らしながらミラースは寝ぼけ眼で歩き出す。

 と、キッチンでは人影が一つ。

 暗い部屋の中、椅子に座っていた。

 誰かと思いながらゆっくりと近づけば、それはエスタであることが判った。

 彼は寝息を立てぐっすりと眠っていた。


「エスタ…エスタ起きて、風邪引くよ」


 しかし、ゆすっても彼が起きる気配はない。

 顔をテーブルに突っ伏したまま、完全に熟睡していた。

 仕方なくミラースは居間に戻ると、自分に掛けられていたのだろう布団を持ち、エスタの肩に掛けてあげた。

 と、ミラースはテーブルに並ぶもう一つのグラスに気付いた。

 飲み残されている状態からして、誰かと飲んでいたに違いない。

 では誰が飲んでいたのか。

 答えは決まりきっている。


「ルイス…?」


 だが周囲にはルイスの姿はなく。

 部屋が暗いことを考えれば先に帰ってしまったのかもしれない。

 しかし、ワインを飲み残したまま帰るだろうか。

 寝ぼけて何処かに行っているのかもしれない。

 そう思い、ミラースは家の外を見た。

 窓向こうに広がる景色―――店の裏庭には井戸がポツリとあるだけ。

 しばらく使われていない古井戸の上には蓋がキッチリ閉じられてある。

 そこに落ちたという可能性はない。

 そもそも、ドアには内側から鍵がかかっていた。

 ルイスはこの家の鍵を持っていない。

 だから、鍵をかけて帰ることは出来ない。

 やはり彼はこの家の何処かにいる。

 踵を返し、ミラースは家の奥へと向かう。

 居間やキッチンにいないとなれば、残る場所は一つ。

 二階だ。




 寝室へと向かう階段。

 大きな音を立てないようにミラースは上っていく。

 別に大きな音を立てても問題はないのだろう。

 が、なんとなくその方が良いとミラ―スは思ったのだ。

 階段を何段か上がったところで、部屋の明かりが漏れていることに気付いた。

 扉が僅かに開いていた。

 静かに、細心の注意を払いながらミラ―スはその扉の前に立った。

 そして、恐る恐る彼女はその隙間から、向こうを覗き込んだ。

 其処にはやはり、探している人物がいた。

 彼は何やら片手にしている。

 どうやらそれは本のようであった。


(…読書…?)


 そう思ったときだ。

 思わず覗き込みすぎたせいで扉が揺れてしまった。

 ギッという軋む音はミラースの耳にだけではなく、部屋中に響いた。

 即座に血の気が引いていく。

 直後、ルイスの視線が彼女を見つけた。

 硬直するミラース。

 どうしよう。

 と、その言葉だけが反復する。

 だが、次の瞬間に放たれた一言は想像と違った。


「何だ、ミラースちゃんか」


 其処には彼特有の甘い笑みがあった。

 気がつけばその手には先ほど持っていた本がない。


「あ…ご、ごめんなさい…」

「いや良いの良いの、俺こそ空き巣っぽくしちゃったからミラースちゃんびっくりしちゃったでしょ」


 いつもと変わらない彼の台詞と笑顔、そして態度。

 ミラースは何とか笑みを作り、「ちょっとびっくりした」と返す。

 ルイスは笑い声を漏らしながら彼女の頭を優しく撫でた。


「エスタも先に寝ちゃったし、暇だったから読書をね…ミラースちゃんももしかしてそう?」

「え、あ…う、うん…」


 咄嗟に頷くことしかできなかった彼女は、とりあえず何度も頷いた。

 別に覗き見るつもりはなかった。

 そう訴えるかのように。


「だったら邪魔しちゃ悪いよな。俺はさっさと退散して寮へと帰りますかな」

「う、うん…」

「なんだよギコチないな~。あ、もしかして俺がやましいことでもするかもって警戒してる? 心配しなくても良いって! 俺こー見えても紳士だぜ?」


 二人は互いに笑みを浮かべ、そして階段を降りていく。

 飲みかけのワインを口に運び、ルイスは裏戸に立った。









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