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第二幕~青年は翼を見る10









「…軍都」


 軍都とは、このガーディ=ウェリントン=ハーレー軍国の中心部にある都市のことだ。

 元は旧国家の王族の名を都市名として使用されていたが、現在その名称は使用禁止とされてしまったため、【軍都】と言う仮称で纏められている。

 ちなみに、このドガルタから軍都まではバスを乗り継いで三日。

 最近出来たばかりである蒸気機関車というものならば一日掛かりで着くと言ったところだ。

 だが、この少女にそう言った交通機関はどう見ても無理だ。


「歩いてきたの?」


 小さく頷く少女。

 徒歩で、となれば軍都からドガルタまでは早くても一週間から二週間は掛かる。


「何か用事で来たの?」

「―――覚えてない。気がついたら、この町にいた」


 その後も、少女はエスタの質問に素直に答えた。






 少女の話によると、彼女は物心ついたときから翼があったわけではなかった。

 ある日突然生えたというのだ。

 そして、それからは『天使』という外見のせいで、何処かに捕らえられていたという。

 幽閉された生活を送っていた少女だったが、ある時、他にも幽閉されていた『天使』の仲間たちが一斉に脱走し、それに紛れて少女も脱走したのだという。

 しかし、仲間たちと散り散りになってしまい、追っ手から逃げ、朦朧とした意識の中、気がつけばこの町に来ていたと少女は言った。


「私、ホントは天使なんかじゃないの…なのに、なのに…」


 大粒の涙を零れさせる少女ミラース。

 確かに、翼さえなければ彼女は普通の、何処にでもいる少女と何ら変わらないのだ。


(僕と何も変わんないはず…なのに…)


 顔を顰めるエスタの表情は悲痛そのものであった。

 このままどうにかしてあげることはないのか?

 いや、何も出来ない。

 長年語られてしまった伝説を一瞬で覆す方法など、今の彼には見つからない。

 だが、エスタは決めた。

 既に決めていた。


「―――行く当てがないなら、僕の家にいなよ」


 ミラースは即座に顔を上げた。

 瞳を見開き、驚きの表情を見せている。

 と、エスタは彼女の肩に触れた。

 とても冷たい少女の温もり。

 そんな彼女へエスタは笑みを浮かべる。


「君は人だ。僕と同じ人だよ…誰も助けてくれないって言うなら僕が君の味方になる。絶対に守るから、だから…大丈夫だよ」


 みるみる、少女の顔はくしゃくしゃになった。

 涙を止めることなく流し、声を上げて泣き出した。

 エスタの言葉が、とても嬉しかったのだ。

 たった一言かもしれない。

 だが、ときとして人はその一言で、心が揺れ動き、救われるのだ。

 大声で泣き出したミラースはエスタにしがみつき、泣きじゃくっていた。

 どこの少女とも変わらない。

 その様子をルイスは部屋の対面壁際で、静観していた。

 僅かに顔を顰めながらも、口元には笑み。

 苦笑を浮かべて。


(コイツは…やっぱり変わらないんだ…)





 こうして、エスタの家にまた一人、仲間が加わった。

 異質な外見を持つ、しかし、何処にでもいるような少女ミラース。




 ―――だがこの日を境目に三人の運命の歯車は、大きく回り始めることとなる―――。








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