第二幕~青年は翼を見る6
エスタとルイスの二人も、天使のお伽噺は知っていた。
天使は不幸の象徴と呼ばれていることも知っていた。
エスタは自分の胸元をソッと掴む。
天使に関わってはいけない。と、心の奥底から思ってはいる。
しかし、関わらなくてはいけない。とも思っている自分もいた。
何故だか自然と呼吸が荒くなってきた。
「僕は…彼女の意見を聞いて、望むようにさせたい」
「はあ? そんな考えで良いわけないだろ!?」
声量を大きくさせるルイス。
彼にしては珍しく心を乱しているようであった。
始めて聞くかもしれない親友の怒声に内心怯えるエスタ。
指先も唇も震えていた。
彼に逆らって良いのかどうか、判らなくて怖かった。
だがしかし―――。
「…ご、ごめん…でも、僕は……」
震える唇をかみ締めながら、エスタは精一杯の声で言った。
ルイスは始め、彼のその怯えは天使によるものだと思っていた。
が、それは違うと悟り、それ以上声を荒げることは止めた。
(そういや…コイツに怒ったことはなかったか…)
と、ルイスは刹那、悲しげな表情を浮かべる。
それから、深い溜め息を漏らした。
「―――判った。この家の主はお前だ。俺は目を瞑るし、これ以上何も言わない」
ルイスの役職としては、本来ならば迷わず拘束すべき対象だ。
そもそも天使という存在は、このマーディル暦が始まって二千年以上余り、史実に登場してはいない。
今や絶滅した存在、伝説的存在となった。
現在下階で寝息を立てている少女を知れば、軍が黙ってはいない。
軍だけではなく、様々な機関、学者たちが挙って彼女を研究し、調べつくそうとする。
(いや―――その可能性はないか…)
とにかく、そういった結末をエスタは懸念しているのだろうとルイスは思った。
エスタはルイスが溜め息をついてしまいたくなるほどに、とてもお人よしなのだ。
昔からそこは変わらない。
「あの子についてはお前の判断に委ねるさ。でもって、俺はそれに従う」
そう言ってルイスはエスタの肩を優しく叩いた。
いつもと変わらない陽気な笑みをついでに見せながら。
それを見つめたエスタは笑みを返し、少々ぎこちなさげに「ありがとう」と告げた。
と、ルイスは突然エスタの隣に座り、強引に肩を組んだ。
「って! なんだよ、怒ったからって疑ってんのか? まさか俺が裏切るわけねーだろ?」
ルイスの笑顔につられ、エスタの笑みも徐々に自然なものへと変わっていく。
エスタはゆっくり、力強く頷いた。
「そうだよね…」
「そうそう! 例え何があっても親友…それは未来永劫変わらないっ! …それはお前が言ったんだろ?」
「…そうだったね」
それから二人は声を上げて笑う。
先ほど見せた対立は、既に過去のものとなった。
それで円満解決。となるはずだった。
が、直後。
それ以上の事態が起きる。
突然ルイスがベッドに倒れ込んだのだ。




