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第二幕~青年は翼を見る2










「じゃ、また明日」

「ああまたな。明日は先輩引き連れてくっからな」


 互いに笑みを浮かべ、ルイスはそのまま帰って行った。

 残されたエスタはカウンターに戻り、今日の売り上げを計算し始める。

 それらが全て終わったときには時刻はもう夕方になっていた。

 とはいえ、空を見ても相変わらずの曇天。

 夕日一つ見られることはなく。

 この空だけでは、今が一体どの時間帯なのかは、知る事はほぼ不可能だ。

 この『ドガルタ』にて時間を知る唯一の方法―――それが、時計だった。

 故に住民たちは常に時計を持ち歩く。

 かく言うエスタも、懐中時計は肌身離さず持っていた。 


「もうこんな時間か…」


 懐中時計で時間を確認したエスタは、夕飯の仕度を始めた。

 アークレおばさんほどではないが、料理の腕はそれなりにある。

 ルイスに始めて料理を披露したときには「まあまあ」という称号を貰った。

 

「今日はポトフにでもしようかな」


 おばさんから貰った最後の野菜を使って今日の晩御飯も決まったところで、エスタは早速取り掛かることにした。






 今日も夜は更けていく。

 しかし、『ドガルタ』の暗雲の空に、月明りも星もない。

 エスタはランプを灯した室内で、細々と夕食を終えた。


「ふう…」


 久しぶりに一人の食事。

 それがこんなにも寂しいものだったとは、とエスタは久々に感じた。

 不意に彼は天井の明かりを見上げ、見つめる。


「一人の夕食なんて何年ぶりかな…」


 溜め息を漏らし、その吐息さえも空しさを与えるだけ。

 このままじっとしていても空しいだけだと感じたエスタは席を立ち、食器の片付けを始める。

 ポトフが少々あまってしまったため、明日ルイスが来たら出してやろうと考えながら、彼は食器を洗い始めた。

 と、そのときだ。

 ゴトリ。

 不穏な音が何処からか聞こえてきた。



 

 何かが落ちたような音。

 その音は自宅内から聞こえてきた。

 エスタの手が止まる。

 視線だけを見渡し、気配を確認する。

 すると、静まり返った自宅内の奥である居間の方から何やらごそごそと音が聞こえてきた。


(まさか、強盗…?)


 今までになかった経験に、エスタの呼吸は粗くなる。

 咄嗟に持っていたおたまを握り締め、彼は居間の方へとゆっくり足を進めた。

 明かりのついていない暗い居間。

 簡素な部屋には暖炉とソファー、そしてテーブルしか置かれていない。

 しかし、そんな部屋にも関わらず何か物音が聞こえてくる。

 その音は暖炉から聞こえてきていることに気付いた。

 部屋の明かりを灯し、息を飲み込みならが彼は暖炉を覗き込んだ。

 今時期は温暖な気候故、使用していない暖炉には灰も薪もなく。

 しかし、清潔にしていたはずの其処には本来あるべきではないものが置かれていた。

 エスタはそれを手に取り、顔を顰めた。


「靴…?」


 しかも明らかにその靴は女性―――それも子供ものだ。

 何故こんなところにそんなものがあるのか。

 答えは明白。

 暖炉の真上―――煙突から落ちてきたのだ。

 冬になると煙突からプレゼントを落とすという御伽噺でもあるまいがと、思いながらもエスタは煙突の上を覗き込もうとした。

 が、直後。

 ヒュオ。

 という風の音が聞こえた。

 そして何かが落下してくる音と気配。

 エスタは覗き込んでいた体勢から慌てて逃げるように飛び退く。

 勢いあまって尻餅をつき、臀部に鈍い痛みが走る。

 が、それよりも凄まじかったのは次の瞬間だった。


  ドザザザッ!


 という音と共に、暖炉から何かが落ちてきたのだ。

 その衝撃はエスタの転んだ比ではなかった。









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