第一幕~青年は再会を果たす5
嵐のような夕食が終わったのは夜も更け出した頃だ。
アークレおばさんがこれでもかというほど次々と料理を披露し、それを一瞬で平らげる男たち。
勿論エスタやルイスの口には僅かしか入らず。
それが何度も繰り返されたために、夕食はすっかりパーティと化してしまったのだ。
こんなに長く食事が続いたのは、エスタが記憶している中でも久しぶりのことだった。
お腹を膨らましながら自室へと返っていく男たちを見送り、残されたエスタとアークレおばさんは後片付けを始める。
しかし今日はルイスがいたため、アークレおばさんは気を使って彼女一人で片付けをすると言った。
そのため、エスタとルイスはキッチンの作業台にて紅茶と焼きリンゴをご馳走になっているところだった。
「そうかい…小さい頃からの幼馴染でね…」
「うん。9年前にルイスが引っ越すまではずっと一緒だったんだ。もう家族みたいなもんだよ」
ルイスの両親はエスタにも優しくしてくれて、何をするにも一緒にしてくれた。
そのせいか、二人は兄弟のように一緒に生活していたと、エスタは記憶している。
「でもケンカはしないんだ。どっちが一番かとか、なんてよく競い合ってはいたけど、いつもルイスが先に折れるんだ」
「お前、負けず嫌いだったからな」
「え、そうだっけ?」
「そうだよ」
そんな会話のやり取りに笑みを零すアークレおばさん。
食器を手際よく洗いながら、彼女は口を開いた。
「ところでルイス君はいつまでこの町に?」
「仕事なんで何時とまでは決めかねますが、とりあえず暫くは滞在することになりそうです」
その後も、エスタとルイスの会話は続く。
と、言っても一方的にエスタが尋ねているようなものであったのだが。
「宿は取ったの?」
「残念なことに軍の駐屯所で寝ることになってる。一応仕事だからな」
「僕のパンはどうだった?」
「ああ、食卓に並んでいたあれか…めちゃめちゃ上手かったぜ」
「軍の仕事はどうなの?」
「大変だな…ま、やりがいはあると思ってるさ」
すっかり夜も更けきった時刻で、ようやく二人は工場を後にした。
本当ならば泊まって行きたい勢いではあったが、ルイスもエスタも明日も早朝から仕事のため、帰らなくてはいけない。
最終のバスがもうすぐ来るため、二人はバス停へと向かった。
「おばさん今日はありがと」
「あいよ。明日はどうするんだ?」
「大分ご馳走になっちゃったし…暫くは自宅で食事するよ」
いつも夕食をご馳走になっているエスタだが、今回は久々に親友と再会したこともある。
毎日二人で通うわけにもいかないし、仕事上であるとはいえ暫くは二人で再会の喜びを味わいたかった。
すると、アークレおばさんは土産にと、野菜を荷箱一杯に詰めて渡してくれた。
「あんた一人だと偏った生活送るんだろうからね。ちゃんと野菜取りなさいよ?」
「うん」
そうしているうちにバスがやって来た。
最終便のバスには乗っている人も殆どおらず。
見送りのアークレおばさんに別れを告げて、エスタとルイスはバスに乗り込む。
と、アークレおばさんはルイスを呼び止めた。
バスに乗り込む手前で足を止めたルイスは、手をバスの乗り口に置きながら足を地面へと下ろした。
アークレおばさんは彼の耳元に口を傾ける。
「エスタをよろしく頼むよ。あの子…ルイス君と別れてから色々あったんだ。あんなに笑っていたのは久しぶりなんだよ…だから…」
その時にルイスが見た彼女の横顔は世話焼きのおばさんというよりも、息子を案ずる母親の顔に近かった。
ルイスは笑みを零し、大きく頷く。
「わかってますよ、マダム・アークレ。なんたってエスタは何があっても俺の親友…それは未来永劫変わらないんですから」
ルイスがバスに乗り込むと同時に、バスはゆっくりと出発した。
アークレおばさんはバスが見えなくなるまで二人を見送り続け、そして静かに工場へと帰って行く。
だが、彼女はそこで足を止めた。
目の前には工場で育てていた小さな花壇があった。
それは、バス停で待つ人たちの目を和ませるためという粋な計らいで、彼女の夫が中庭の花を移植し設置したものだった。
今朝も曇り空に負けず、花壇の花たちは咲いていた。
が、今見てみると花たちは全て枯れていた。
アークレおばさんは慌てて屈みこみ、花びらや葉に触れてみる。
水を与えすぎた、与えてなかった、病気か。
考えられる原因は多々あるだろうが、この花はどんな環境でも育つたくましい花なのだ。
寒暖や水、病気といったものに強いと言う理由で夫が植えたものだったはずだ。
現に今日の夕方まではたくましく健気にずっと咲き続けていたのだ。
「どうして…」
本来ならば薄桃色に咲いていたはずの花たちは、夫の形見でもあった。
中庭にも植えてあるとはいえ、この花が枯れてしまっていること自体に、アークレおばさんは酷い胸騒ぎを抱く。
この花には、『この花が枯れるとき、それは不幸の前兆だ』という言い伝えがあったからだ。
アークレおばさんは両手を合わせ、祈った。
(あんた…何かを報せてくれてるんだね…あんた……あたしたち、工場員や、エスタを守っとくれ……!)




