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~悔恨の手記1~









 マーディル暦2040年、26、07


 この手記はかつて我ら―――否、私が犯してしまった大罪についてを書き残したものだ。

 私の愚かな判断があのような悲劇を生み、そして一人の青年に重荷を背負わせてしまったことを、今も後悔し続けている。

 しかし、死期が間もないこの私に一体何が出来ようか。

 せめて出来ることがあるとすれば、懺悔の意を込めて私の大罪をこうして文面に記すことくらいであろう。




 ただし、私の大罪は本来であれば文字に起こす事も許されるものではない。

 この手記が見つかれば即刻軍により処分されるだろうし、読んだ者さえも私と同等に罪人と見なされるであろう。

 だからもし、真実が知りたいとこれを読む者がいるのであれば、覚悟しておいて欲しい。

 私の犯した罪を、貴殿も背負うという覚悟を。









 元々、私はただのしがない新米医師であった。

 その当時、長期化していた内戦が故郷の傍で勃発してしまい、巻き込まれる形で私は軍により戦場へと駆り出された。

 『長期化』と言っても対立相手の旧国家の戦力は王族に雇われた傭兵や賊。もしくはお手本の構えしかしらない王族たちばかり。

 最早勝敗は既に決しており、今は敵の殲滅戦に当たっているのだと巷では噂されていた。

 そのこともあり、私の役目は些細な補助程度のものだとばかり思っていた。

 



 だが、それは間違いだった。

 致命傷に至るまでの者はおらなかったが、重症の者も中にはいた。

 しかしそれ以上に驚愕したことは彼らの異常なまでの精神的な疲弊であった。

 軍兵たちは皆、揃いも揃って顔面蒼白としており、気が触れたような者も中にはいた。

 そんな彼らに尋ねてみると、彼らは皆口を揃えて言った。

 「あれは人じゃない」と。

 その真意を知るべく他の軍医や上官に問うたが、「戦によるストレスで精神を病んだのだろう」という回答ばかりだった。

 だが私は気付いていた。

 上官らも何かを知っている上で私に語らないでいるということに。

 一般民である私には言えないような事態が、皆が口に出来ないような状況が、この戦場で起きている。

 そう理解した私は、ともかく負傷者らを癒すべく手探りながら熱心に彼らと出来得る限りの治療を施した。

 そうすることしか、この時の私には出来なかったのだ。




 内戦の長期化は軍や民衆の予想以上であった。

 巷の噂では「旧国家が太古の『天使と人の争乱時』に使われた禁忌の兵器に手を出した」と囁かれていた程だ。

 軍の者たちも、それに対して否定も肯定もしなかった。



 この頃の私は医師と言うよりは心を気丈に保つ方法として白猿の教えを説いていた。

 そのうちに神職者として扱われるようになっていた。

 私自身、元より白猿神の信者であったこともあり、否定はしないでいた。

 そんなある時。

 陣所に突然、一人の少年が乱入して来た。

 一見普通の幼い少年であったが、彼は何故か真っ白な面を付けていた。

 目元も口元すらも覆われた仮面。

 そして少年の手には剣が握られていた。

 その少年を見つけるなり、兵士たちは驚き叫んだ。

 叫び声、悲鳴は瞬く間に連鎖し、その陣所は大混乱に陥った。

 当然私は困惑した。

 何故この少年に軍兵らは怖れ慄くのかと。




 しかし、私は直ぐにその意味を思い知った。

 陣所にいた軍兵は少年に総出で攻撃を仕掛けた。

 非情かつ絶望的な、重火器を用いた一斉攻撃だった。

 私は感情を抱く間も無かった。

 絶命するべき少年が、目の前で健全な体に戻っていったからだ。

 撃たれた傷も、火傷になるはずだった皮膚も、元通りとなった。

 そうして少年は、負傷しながらも反撃してきたのだ。

 それは恐ろしくあっという間の惨劇であった。

 軍兵らは次々と倒れ、逃げ惑う者にも容赦なく少年は剣を向けた。

 少年は軍兵たちを襲いながら泣き叫んでいた。


「僕たちは何もしてなかったのに! お前たちのせいで母様と妹は消えてしまった!」と。


 軍兵らよりも悲痛なあの叫び声は、未だに私の耳から離れずにいる。




 結論から言えば旧国家は、古の大戦で使われた禁忌の兵器を使用していた。

 ただし、それは内戦が起こるより以前からであった。

 旧国家の王族たちは、『天使の呪い』と呼ばれる天使の遺灰から『不老不死になる面』という禁忌の兵器を生み出していたのだ。

 この事実は私が後の研究に関する調査で知ったものであるが、その辺りについては後述で記すこととする。

 ともかく、彼ら王族たちは不老不死を求めた挙句、その禁忌に手を出してしまったようだ。

 その開発に没頭する余り国は急激に衰退し、見兼ねた軍が強引に政権を担うことにしたのだ。

 そして、それに納得出来なかった王族たちにより起こったのが、後の内戦―――テンラクの戦いとも呼ばれるものだ。

 軍側は王族の非力さを知るからこそ直ぐに負かせると思い込んだ。

 王族側は己の無敵さを知るからこそ直ぐに降参させられると思い込んだ。

 だが両者の思惑は外れ、長き大戦……それもただただ虚しいだけの消耗戦となったのだ。








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