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終幕~僕のはじまりはじまり2








 それほど大きくはない倉庫といった室内。

 だが周辺の壁は鉄製で打ち付けられており、まるでそこは部屋と言うよりは檻のようにも見える。

 と、そんな事を考えていたルイスを後目に、トラストは持っていたランプで前方を照らす。


「仮面…?」

「ああ…儂はこれを檻猿籠鳥(かんえんろうちょう)の面と呼んでおる」


 四方を透明硝子で囲われ、まるで宝飾品の如く大切そうに保管されていた兵器。

 それは目元も口元も覆われた一面真っ白の仮面であった。


「これがまさか旧国家が生産したという遺物兵器ですか…?」


 ルイスの質問にトラストは沈黙したまま頭を振る。

 彼はその厳重な硝子ケースを慎重に持ち上げながら言う。


「古時代の遺物兵器とはもっと凄絶とした代物であったと聞くが…これはそれらとはまた別格の悲惨な凶器だ」


 一見するとただの真っ白過ぎる仮面だ。

 ただし、被れば目も見えず呼吸もままならないだろう、仮面と呼ぶのも怪しい代物。

 と、トラストは硝子を退かしながら言った。


「単刀直入に言うとな…この仮面を被った者は不老不死となるのだ」

「そ、そんな…!?」

「厳密には『不老となり、限りなく不死となる』というべきだろうがな」


 老いと死という宿命から逃れられない人間にとって、不老不死とは、望む者には喉から手が出るような奇跡の秘術。

 だが、そう言った概念にとらわれない生命体に、ルイスは心当たりがあった。

 彼の推測を裏付けるかのように、その仮面の色がそれを物語っている。


「まさか…これ…」

「ああ―――天使の呪いと云われる、かの遺灰より作られた産物だ」


 恐る恐る尋ねたルイスに、トラストはそう答える。

 トラストの話しによれば、この仮面を被った者は天使に匹敵する力を得られるのだという。

 しかも養製天使(ようせいてんし)のように『天使人格』という思念体に精神を蝕まれるような副作用も存在しない。

 自分を保ったまま、天使のような長命と、不死に等しい身体と力を手に入れることが出来る。


「こんなものを旧国家が作っていたと、言うのですか…?」

「信じられないことだろうが、事実じゃ。ある時を境に衰退を始める王政…その要因がこれであり、その後の内戦が長引いた元凶でもあるからのう」


 不老不死という私利私欲のため、天使の烙印を付けてまで堕ちていった王族たち。

 それにより起こった内戦を、軍は『天烙(てんらく)の戦い』と揶揄したのだ。




 トラストの話す真実に頭の整理が付かず、困惑を隠せないルイス。

 ただ単に灰を押し固めて作っただけのようにも見えるが、トラストの話では決してそんなことはないのだと言う。

 作った者やその技法は文献も残されておらず、今も謎のままだと、トラストは語る。


「軍もこれを開発しようとはした…が、我らには手に余る代物じゃった…それに、これにもいくつかの欠点が存在する」


 冷たく、まるで石膏の様な面。

 目も口も象られていないそれを見つめながら、ルイスは顔を顰める。


「仮面を付けたが最後、絶対に剥がしてはならない。剥がしたり仮面が壊れたりすれば、付けていた人間は間もなく仮面ごと灰塵となり散ってしまうのだ」


 どういう原理で、どうした理屈でそうなるのか。

 その構造にはトラストも理解出来ていない。

 ただ一つ確かなことは、この仮面でも完全な不老不死になることはない。ということだ。


「―――思った以上に重いですね……」


 ずしりと手に掛かる重み。

 静かに仮面を手に取ったルイス。

 この仮面の能力を聞いたときから、彼はトラストの目的を察していた。


「要は俺がこれを付けて生き続け、予言を回避しろと…いうことですね」

「お主は…本当に切れ者だのう。イグバーンが目を掛けていた理由がよく分かる」


 そう言って哀し気に微笑むトラスト。


「これの使用許可を得るために四年も掛かってしまった…それに、軍はこれを使用する代わりにと、お主に条件を突きつけてきた」









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