終幕~僕のはじまりはじまり1
―――マーディル暦2037年、02、30
灰の町で起きた先の大事件は、表向きには『工場の不備による爆破事故』として処分された。
跡形もなく物や者が消滅したあの大惨事は、悪しき歴史として人々の記憶に残っていく。
だがしかし、あの日起こった真実は、決して語られることはないだろう。
あの場所で何があったのか。
誰がいたのか、誰が生き残ったのかさえも。
―――軍都の、とある研究施設。
その地下へと続く階段を、二つの人影が下りていく。
「施設にこんな地下があったなんて意外でした」
おもむろにそう語る青年は、持っていたランプの灯りで周辺の壁や足下を照らす。
一切の灯りがない薄暗い階段は、昨今では見ないほど古い石造りをしていた。
随分昔から存在していたものと思われる。
「…施設に地下があったわけではなく、この地下施設の上に建物が作られたのだ」
青年の先を進む老人はそう言葉を返す。
そして彼は暫くの間を置いて付け足す。
「何時でも誰でも、隠したいものの上には蓋をしたがるものだからのう…」
その言葉から推察するに、この先には『隠したいもの』があるということになる。
青年は静かに息を呑む。
「アグオン将軍…そろそろ話してくれても良いじゃないですか…?」
静寂とした空間に二つの足音が木霊する中。
青年―――ルイスはそう尋ねた。
彼は突如、特別理由も告げられずここに連れらてきていた。
「『託したいもの』とは…何ですか?」
と、トラストの足が止まる。
階段の道のりはまだまだ続いている。
「……旧国家と軍による内戦―――あれが『テンラクの戦い』と呼ばれておるのは知っているか?」
唐突な質問の意図がいまいち読めず、眉を顰めるルイス。
70年も昔に始まり、長きに渡り続いた戦い。
それは、今となってはあの『エスタ』が生み出されるきっかけになった元凶とも言えた。
「学問所で昔学びました。崩壊状態であった王国と贅の限りを尽くした王族たちの転落の争乱故に付いた別称だ…と、教わりましたが…?」
停止したトラストと同じく足を止めたルイスは、そう答える。
するとトラストは小さく頷き、再度階段を下り始める。
「だが、真の意味はそうではない」
その言葉にルイスは目を見開く。
階段を下る程に暗さは一層と増し、湿気を帯びた苔生した臭いが漂い始める。
「当時劣勢と云われた旧国家が何故50年近くも戦いを続けられたのか…」
「それは旧国家が遥か古の戦争―――天使と人間の戦争時代に使われた遺物兵器を生産したせいだと、云う話ではないのですか?」
そう尋ねたルイスであったが、反面それは違うのだろうと推測する。
事実、彼は先日その一端を目の当たりにしていた。
案の定トラストは頭を振って「それは半分正解で半分不正解だ」と答えた。
「―――テンラクの戦い…あれはまさに悪夢の惨劇だった。史実には伏せられてしまったが軍も甚大な被害を負い、生存者が儂と若輩の新兵二名のみという状況もあった程だ」
トラストはそう話しながら再びその足を止めた。
が、今度は行き止まり―――最下層へと辿り着いたようだった。
古く錆びついた鉄製の扉。
トラストは懐から同じく古びた鉄製の鍵を取り出し、その鍵穴へ押し込む。
「…あ奴も、あの惨状を生還したばかりに随分な宿命を背負ってしまった…あのような末路を辿ることもなかったのだろうに…」
ぽつりとトラストは独り言を呟く。
それを耳にしてしまったルイスは、思わず目を大きくさせた。
彼が呟いた人物に心当たりがあったからだ。
しかし、それについて尋ねるより先に扉が大きな音を立てて開かれ、ルイスの言葉は塞がれてしまう。
「それほどまで事実は泥沼化した争いであったわけだが…旧国家にそれを可能とさせた兵器が、ここに眠っておる」
ゆっくりと、金属の擦り合う轟音と共に開かれていく扉。
暗黒の室内にて厳重に保管されていたもの。
それが、トラストの言う『託したいもの』の正体であった。




