第3話b¹
ホントはちゃんとしたサブタイトルがあるんですけど、ちょっとでも目を引くように毎話ふざけてます!
俺が投げた力無いボールを容易に腕に収め、少女は俺に声を上げる。
「もう!せっかくイイ感じだったのに!!キミ弱いじゃんか!!」
そんなん言わんでええやん!俺運動できひん言うてんのになんでこんな大役任せられなあかんの?!無理やんそんなん、イヤやて、いてこますぞ!!
「なんとか言ってよ!じゃないとボクはキミと戦う意味を見出だせないよ!!」
なんやて!!それは俺がザコ言いたいんか!
上等や、ぶ ち か ま し た る で!
「あっ……す…みませっ…、俺…運動苦手で……」
「もー、ゆーちゃんと話してたから…てっきりキミも強いのかと思っちゃったじゃん。もういいよ!」
「……ゆーちゃん?(悠希のことか?知り合いだったんだ…ゆーちゃん呼びなんてさぞかし仲がよろしいんでしょーねえ!!)」
少女は肩を何回か回し、べえっと舌を出す。
「すぐ終わりにしちゃうもんねぇーだ!」
少女の殺人用の細い腕に力が入っていく。先程までは外から見ていて純粋にスゴいと思ったが、いざ自分にその凶器が向けられると恐怖でしかない。
「とりゃっ!!!」
可愛らしいかけ声に反して投げたボールは形が変わるほど猛々しく唸っている。
それをまともに受けることはできないだろうということは言われずとも分かる。
―――なら、まともに受けない。それだけだ。
「―――っ!!!」
細く短く息を吐き、ボールが走る道から俺は飛び退いた。
「ああーーーっ!!よけられたぁ!」
少女は思い通りに事が進まずに地団駄を踏む。
「なんなの!?今度はよけるのが相手なの?!もういいってぇー!!」
少女が理解したように俺は少女と外野を行き来するボールを、なるべく余裕を持って幾度となく回避し続けた。
「んあ~!めんどくさいよぉおお!」
「(じゃあ俺を狙うのやめてほしいんすけどぉ。)」
俺は、攻撃に対し機敏な反応を続けるが、心の中では重厚な文句をぶつける。少女はいかにも負けたくないッ!と言いたげに狙いを1つに定めて投げ続けた。
少女は悠希と戦っていたときにはボール回しを気にする必要がなかった。しかし今は、俺がボールを避けることで必然的に外野との協力が必要になっている。その目から見ると、おそらく少女が苦手なことは周りと調子を合わせることなのだろう。
「―――ッ!!もー!また当たらなかったよぉ~!なんでぇえぇええ~~~!!」
「うわっ!……あちゃー、また遠くまで飛んで行っちゃった…。あんなに速いボールじゃオレ達も捕れないじゃん。」
少女の味方の1人がボールを遠目に見ながら言う。周囲の多くが少女の欠点を意識し、白い目をむけ始めたところで、俺は白い目をむいた。
―――お"え"えええっ、しんどオ"エ"エ"エ"エ"エ"
やっべぇ、運動なんて15年間本気で取り組んだことねぇのにっ!別に標的になるようなことしてねぇのにっ!なんでこんなキツイ思いせなアカンのっ!
相手のボール回しができていないからと言って俺が永続的に回避し続けられるのかというと、そうではないのが事実だ。俺が何故か得意とする回避行動は、集中力とそれなりの体力の消耗を要する。だからなるべく早めに連続回避とか言う停滞地獄から脱け出したい。もしボール回しもできるようになれば俺の疲労は脅威的なまでに増大することだろう。
「えーいっ!」
少女は相変わらず強すぎるボールを放るが、俺は相変わらずボールを回避し、ボールは相変わらずスピードを保ったまま俺の後ろに抜けていく。
―――そのとき、ボールが強く手中に収まるときの、バシッという音が聞こえた。
「よっしゃ、そしてぇ……ここだぁ!」
ボール回しはできていなかったはずだ。しかし少女の投げた速いボールが外野にいる少女の味方の手を介して、たった今 回避行動をとったばかりの崩れた俺を刺す。
胸の中心に吸い込まれるようにボールが近づいて来た。あと3ミリ進めば体を貫くだろうというボールを、空中に浮いた俺は体をひねって回避する。
「くぁああ!!なるほどな、確かに避けられるとキツイわ!」
そう言う少女の味方は、「でも惜しかったなぁ!」と付け加える。
惜しかったなぁ!じゃねぇよっ!さっき出てきたばっかのモブキャラが試合の決着つけかけてんじゃねぇよっ!
息の切れが止まらない。俺はさっきの一瞬に力を根こそぎ持っていかれた。少女の攻撃を回避しやすいように、なるべく少女から距離を取っていたのが失敗だった。そのせいで外野の敵に、ほぼ真上から攻撃を仕掛けられる形になってしまったのだ。
ボールのバウンドが自陣にて収まる。どうやら久しぶりに俺たちのチームがボールを投げられるらしい。残った味方の数名は、先程の少女の例のように流れ弾が来ないことを遠くから警戒しているようだった。そして、投球したいとの意思表示は誰からも得られなかったため、結局は一番近くにいる俺がボールを投げるべきだろうなぁ、と勝手に視線と空気を読んで俺はボールを握った。
「キミも体が温まってきた頃合いだね!さあっ、キミの本気をボクにぶつけてみなよ!」
俺はボールを構えて投げる準備を始める。思えば、これほど俺が頑張って体を動かしているのは、最初に悠希と約束した どうせなら勝とう というのを必死に守ろうとしていたからだろうか。瞳の奥に悠希の敵を据え置いて、真意を自分に問い掛けてみる。するとそこには、思えば思うほどこその深くてほの暗い何か「フォームきもいし早く投げてよ!」えへ~~~いっっ!!!
「よしっ!またボクのターンだね!」
少女は小さな手でボールを抱え持ち、得意そうな顔をする。
「ボクの第2形態を見せる時が来ちゃったよ!よく見ててね!いっくよーっ♪♪」
「(えっ、かわいい合法ロリのままでいてよ…)」
少女は宣言した後に張り詰めたオーラを広げ、まるでその体に力を溜めていくように空気が重くなる。
「ずむむむむむっ!!ふんっ!」
空気が一瞬にして開いていく。少女はというと、胸を張り、頬をぷくぷくっと膨らませてこう言った。
「失敗っ!レベルアップできません!」
ぶぅーっと残念がる仕草を見て、俺は床に座り込んで天井の奥の方を見上げた。
―――俺ちょっとあの子の味方になってこようかな…
「あっ!座ってると当てちゃうんだよ!えいっ!」
少女は軽々しく豪速球を投げた。失敗ってなんだろうね。
俺はそれを寝転がって、というより、寝て転がってかわす。
「…うぇっ!?なにそれっ!!」
少女は俺の姿を見て、その珍妙さに思わず声を出した。俺も心の中で珍妙な声を出してみた。
「(うぇひひっ!なんか楽な避け方見つけちゃったずぇえ!!)」
少女のボールは床を跳ね、外野の男子生徒の手に難なく収まる。彼もまた、寝転がる俺を撃破することができず、結局は俺が何十回もコロコロ転がり、ボールを避け続けるという謎の停滞した戦況が作られた。
「―――んもうっ!なにこれっ!!」
このままでは埒があかないと少女は自分の手にあるボールを両手で強く握る。
「っていうか!さっさとちゃんと立ってよっ!ボクは本気のキミと戦いたいんだから!!」
少女は俺をビシっと指差し、鼻息を荒げる。もちろん俺がそれに応じる必要はない。そもそも、空間を動き物体を狙うより、床という平面を移動する的を目掛けた方が撃破しやすいのは分かりきったことだろう。しかし、少女は勝負ごとに真摯に向き合いたい性格らしく、俺が立ち上がるまでは絶対にピッチングを行わないという頑固さが伺えた。
―――もう、疲れてんだから出来るだけ楽させてよ……
俺は敵チームの内野と外野、残っている味方など、戦力の差を見つめ直す。少女が未だ大きな疲労を見せていないことから、そこに圧倒的な断崖があるのは明白だ。
そう、勝つならまずは、少女をなんとかしないと……
「―――……そうだ。」
俺は天井を見上げた。
おやおや天井デッキかな?