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Lifes∵正義と悪は1人2役、演じるのは泣き虫ヒーロー  作者: 凸遅 ひーる凹
第0章 Life's…
3/11

第2話 ゴミみたいなウンチとソファーを食べた無愛想in遊園地

はやく大人になりたぃ~なぁあ!


ワイ「いいいやぁだあああぁぁ」

 テレビで見たヒーローは、すっごくカッコよくて、僕もそんなふうに、だれかを助けたいって思ったんだ。

 だからあのとき、…たった一言、その言葉が出なくって、本当に情けなかった。


 それからは、僕は自分に期待することがほとんどなくなっていった。



『神様がいるのなら、なんで勇気をくれないの?』



 なんて…そんなものは全部、全部俺のせいなのに、また“()()”を求めてしまうんだ。











「(施設 かぁ、やっぱり学生じゃあ子どもの面倒とか見れないもんなぁ。)」



 文明の利器に知識を頼みきる情報社会で、俺はだらぁっとベッドに寝そべりながら検索結果を眺める。そして朝日を避け、大きくあくびをして立ち上がった。



「(本人の意思も尊重すべきだろうし、ココロにもそれとなく尋ねてみようのコーナー)」



 俺は自分の部屋から飛び出してリビングに向かう。




 ココロはソファーをかじっていた。



「なにしてんの?」



 ココロはごしごしと口元を拭い、冷静な面持ちで言う。



「……おいしいもの、ないかなって。」






「それって、ソファーを食べる理由になるの?」


「……地球のモノはなんでもおいしいって言われた。」


()()のモノ?……誰に?」



 ココロはまっすぐ指を伸ばして俺を指す。



「…ココロさん、その心は?」


「……かずきが言ってたよ。」


「あー俺かぁ。覚えはないけどなー。だとしてもソファー食えとは言わないけどね?」


「……まずかった。」


「そりゃそうだよ。まさかソファーも職人もニトリの店員も食べられるとは思ってないもんね。」






 そう言っていたのが5日ほど前、たった5日だがココロは急激に進歩した。


 まず家にある本を全部読み尽くしてしまった。父の職業柄小難しい内容ばかりで量も異常な本たちが並んでいたが、それを完全読破したということはそういうことである。きっとそういうことなんだろうな。

 次にお箸が使えるようになった。もう自由自在だ。ということはそういうことかもしれない。

 あとソファーとかの非食品を食べなくなった。これに関しては普通にどういうことなんだろうか。進歩というか、いやまあ進歩か。じゃあそういうことでいいか。


 とにかく、ココロはもう難なく俺と話せるくらいの知識と慣れを得たが、まだできていないことがある。



 それは―――――――――、




「ココロ、外に出てみない?」



 ココロは2周目に入った読書リレーを一旦切り上げ、こちらに体を向けた。



「……外、…図書館とか?」


「相変わらず本好きねぇ。下剋上して巫女さんとか司書さんになるんかなぁ。」



 そうじゃなくてと俺は話を続ける。



「せっかくココロの初外出なんだし、楽しいことしようよ!」


「……読書?」


「まあそれもいいけど、やっぱりここら辺で楽しいところと言ったら…」






「やっぱ遊園地でしょ!」



 日曜午前、俺たちは子供の夢の聖地、遊園地に来ていた。



「付いて来てくれてありがとっ!!よし、じゃあ、今日はやりたいこと何でもやって良いぞ。見たいものとか食べたいものとか遠慮しないで、わがままをどんどん言ってね!」


「……遠慮しないで、わがままを…」






 12時半になりました。まだ何もしていません。



「あの、…ココロさん?やっぱり遠慮してる?」



 俺の隣で下を向くココロに問いかける。



「… … … … …、してない。」


「してる人の間の取り方だけどね?」


「……わたしは、感情を出したらだめなの。」



 ココロの声色からどこか切羽つまったような感じが伝わってくる。ココロの正面に入り両肩に手を置いて俺は言った。



「誰がそんなことを決めたのかは知らないけどさ、俺はココロに笑っててほしいな。」


「……むりだよ。笑ったらだめだから。」


「そんな、大晦日じゃないんだし…(さっきから だめだだめだ って何かに縛られてるみたいに。でもそれは、“笑えない”ってことじゃないんだよね?)」



 俺はココロの後ろに回り、背中を押して半ば強引に歩きだす。



「ココロ!お腹空いたでしょ?何か美味しいもの食べに行こ!」



 ココロの顔は見ないように歩いた。今の彼女が笑っているのか怒っているのか知らない方がいい気がしたからだ。






 食事ができる店を探す途中で、ココロが()()の外から来たんじゃないか、という考えが浮かんだ。


 そう考えると、空から落ちてきたのもこれまでの不思議な行動も説明がつく。


 俺は少女に話を切り出してみることにした。



「…ココロ、おまえやっぱr―――」

『やあ、みんな(裏声)今日も来てくれてありがとう!じゃあ、みんなであの遠くのお城まで出発だ!』


『わー!』



 俺の言葉を、子供たちの元気な声とその集団から頭が飛び出ているM字ハゲが強調された例のネズミさんの声が遮った。あの着ぐるみって声出していいのかな?



「うわー、めっちゃ走ってる…。ココロはああいうの近くに行って見てみたい?」






   答えはなかった。


 答えどころかココロの姿もなかったからである。




「まじかよ」











「うわっ、わぁ。」


『きゃはは!やったぁ着いたぁー!!』


『みんなっ、はあっ、おつかれさま!(ダミ声)』



 ココロはネズミと子どもの大群に押し負けて、もと居たところから遠く離れた場所へ流されていた。ネズミと子どもたちはすぐに解散し、各々が写真を撮ったり帰ったりしている。



「……あれ?ここってどこ?」



 ココロはたったひとり知らない場所に立っていた。






「(ごはんを食べようって言われたとき、やっぱりうれしかったな。)」



 ココロは道の端に行き、ゴミ箱の影に隠れるようにして屈んだ。



「(でも、それでうれしいって思ったから、やっぱり今みたいに悪いことがおきてるんだ。前だって、わたしがいいって思ったまま進んだから“あんなこと”になっちゃった。いろんな人を傷つけた。)」



 少しずつ日は傾き、お腹の音が聞こえる。



「(ああ、もういやだよ。まただれかが傷つくくらいなら、わたしの感情なんてなくなればいいのに。わたしが笑わなくなればいいのに。)」



 うつむいたココロの瞳は、太陽より赤くなっていた。






「あ、ココロ!こんなところに居たのか。」



 ふとココロにとって聞き慣れた声が聞こえる。それはひどく懐かしいとさえ思う声だった。



「……さがさなくて良かったのに。」


「捜さないと俺的には大問題だけどね?」


「……もうごはん食べない。」


「いやぁー死んじゃうと思うよ?」


「……そのときは()()を使って生き延びる。そもそも今まではごはんも食べなくて良かったのに。…」



 ()()?そういう本でも読んだのか?それとも本当に…



「……もう、なにもいらない!だって、だって…」



 ココロは黙ってしまった。彼女も何か大きなモノを抱えているのかもしれない。


   “なにもいらない”


 そう言いながら心の底では何かを求めている。そんな彼女の姿が、この世で一番嫌いな誰かと重なってしまった。



「………じゃあ、俺も必要ないよね。」


「……え?」


「ココロがごはんも何も要らないって言うのなら、“周りの人間”だって要らないよね?そんなに簡単に否定してしまえるのなら、きっと俺は何の価値もない、ゴミみたいな人間だよ。そんなのとは関わらない方がいいかもね。」


「ちっ、ちがっ」


「違わねぇよ。何も違うことなんてねぇだろうがよ。おまえはそうやって、いつも否定して逃げてばかりだよな。ちょっとは否定される方の気持ちを考えて発言してんのか?おまえはまだそんなこともできねぇのかよ。いい加減()()になれよ。」






「………か…ずき…」






 ココロは涙を流した。

  止まらないほどたくさん流した。


 俺は何もできなかった。

  そこで止まったままだった。






 ―――ああ、また傷つけてしまったんだ。―――






 何がゴミみたいな人間だ。今の状況こそ、よっぽどゴミじゃねぇか。


 でも、もうココロと話す資格はない。ココロは何も悪くないのに、こんなに傷つけてしまったんだから。



 俺はその場を立ち去ろうとした。






『神様がいるのなら、なんで勇気をくれないの?』


 ふと、過去の自分の声が聞こえる。



 だから、そんなものは全部俺のせいだろ。






『俺のせいなら、俺が勇気を出せよ。』


 今の自分が問いかける。




一言程度でいい、だから誰かを、きみを救う勇気を






「ココロ。」



 俺は少女の顔が見える位置に屈んだ。今の彼女は泣いている。それを笑顔にする術を俺は持っていない。


 だから、―――――――――



「ごめん。」



 少女はびっくりした様子で俺を見ている。



「俺、強がりだからさ、つい言い過ぎちゃうんだ。ココロは何も悪くないよ。俺が悪いんだ。だから、“なにもいらない”なんて言わないで。いつでも俺を頼ってよ。」



 少女に言葉が届くように、微笑みを交えて話す。不要な言葉(強がり)を捨て、本当の思いだけを拾った。



「……かずきは、悪くない。かずきを傷つけたのはわたしだから。」


「………」



 ココロ自身も思いを伝えようとしてくれていることが伝わった。だがきっと、これを続けていると終わりが来ないだろう。




「……!?」




 俺はココロを抱きしめた。強くやさしく腕で包んだ。


 まだ毛布で包むことしかできなかったが、今日くらいは彼女のぬくもりを知りたくなったのだ。


 背中が震え、肩で大きく息をするココロ。それを静めるために、何度も何度もココロを撫でた。











「すっかり夕方になっちゃったね。」



 オレンジに染まった遊園地内でココロに話しかけた。ココロはコクリとうなずく。



「ホントにお昼は何も食べなくて良かったの?」


「…うん。1周回ってお腹空いてなかったし、食べてる時間がもったいないからその分あそびたかった。」



 ココロが望んだ通り、あのあと残された時間で様々なアトラクションに足を運んだ。ココロはジェットコースターを特に気に入ったらしく、俺が軽く死ぬまで一緒に乗り回した。



「そっかそっか、じゃあそろそろ閉園だけど何か乗りたい物ある?」


「…あれがいい。」



 ココロはまっすぐ指を伸ばして俺を指す。



「…ココロさん、その心は?」


「…おんぶ。」


「あー俺かぁ。…まあ、いっか。じゃあそのまま帰るぞぉ!」


「…うん。」






 正直、俺はそこまで体力はない方だけど、ココロのためならたとえこの身朽ち果てようとも!


「ぜぇええ!!はぁあああ!!!」


「…かずき、今の時代にそんなにうるさい息切れする人いないよ。」



 やっとの思いで自宅の玄関までココロを運び終えた俺は、その場で倒れ伏した。



「…だいじょうぶ?」



 ココロは俺の近くまで寄って、ちょこんと小さく屈んでいた。



「(…泣いたのに、笑ったのに、うれしかったのに、いいこといっぱいあった。かずきを信じていいのかな?)」



 ココロは俺に手を伸ばす。



「…たてる?」


「ああ、…ありがと。」



 ココロの手を借りて体を起こした。




 ココロには、一度手を振り払われた。でも今はココロから手を差し伸べてくれている。


 きっと、払われた手もいつかはつながるんだ。




それを知って、俺は少し()()になれた気がした。











 それをもっと早く知っていれば、“今の俺”はもっと違っていたのかもしれないのに…






 異世界転移まで あと 10日

異世界カウントが半分になりましたね。

今後は小数点で稼ごうかなって。

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