第4話b² 消えた笑顔
第0章、ラストの話です!
「和希!このあとどっかで遊ぶならどこがいい?!!」
和希は少しビクッと体を震わせたあとで、嬉しがるように微笑んで、小首を傾げるクセを見せる。
「悠希が行きたいところに行っていいよ!」
和希の細い喉が上がって小さな口からやさしい声が聞こえた。
「まっふぇかずき。」
大きいハンバーガーでほっぺをいっぱいに膨らませたココロちゃんが、目線はテーブルに向けたままで声を出した。
「ゆうきはかずきの行きたいところを聞きたいんだと思う。ちゃんと応えてあげて…?」
その発言を聞くと、ココロちゃんはやっぱり恐ろしいし、やっぱりかわいいなって思った。
「そうそう、和希のやりたいこととか好きな景色とか、まだ知らないことがいっぱいあるだろうから教えてほしいな!」
「…ぇえー、でも皆が楽しめる場所なんて俺知らないしなぁ」
腕を組んでなんとか思い出そうとしてるけど、何も出てこないと頭をうならせていた。
「和希が行きたいところでいいんだよ?私たちは付いて行くから!」
ね、ココロちゃん!と目をやると、その丸い頭が縦に運動した。
「……えぇーっ、じゃあ楽しくなくても楽しんでね?」
不安と笑いが混ざったような声で和希が言うので、私はなんだかムッとして和希を見据えた。
「「もちろん」」
ココロちゃんと私のいろんな感情の声が重なった。
結論から言うと、普通にエンジョイできた。
いきなり猫カフェに行って癒やされたり、甘い物を食べて幸せになったり、ゲームセンターで和希が羽を伸ばしたり、夕方の噴水広場で落ち着いたり、その合間に和希の筋肉痛の再発を心配したりと、長いようで短い、複雑なようで単純な、楽しい一日を過ごした。
―――だぁけえどぉおお!!!!!
今日で絶対決めるはずだったのにぃいぃいぃいいいいいっ!!
気付けば夜、今日のメインはあと眠るだけという時分に、私は自宅自部屋マイおふとんに頭をうずめていた。
「え!?まじ、え!?なん、え!?え!?え!?」
1人でなんかすっごい悲しい気持ちになった。
「だってねぇ、いろんなイベントすっ飛ばしたよねえ?尺か?存外1個1個が長尺やったんか?長いようで短い一日は?複雑なようで単純な楽しさは?ちょっと私の経験してない言葉たちがさっき書き連ねられて並んでましたけども。
はあ!恥ずい!私今日何してたの?しかも告れなかったし…やばいよホントにっ!!もぉ~どうしよぉ~!!!」
それからというもの、私は壁なり床なり天井なりに頭突きをして平常心を保とうと頑張った。
そして結局、私は震えながらスマホを手にした。
ドアが忙しそうに開いた。
「…おっ。待ってたよ。」
そこから出てきたのは和希だ。
「おー、お待たせ。って、まだ寒いんだし、夜は気を付けないと…」
「まあ、私から誘ったし待たせるのは悪いじゃん。」
私はスマホのトーク画面を改めて確認する。
◇<ねえ和希コンビニ行こ?
◆<ええで
「和希も断ることを覚えていいんじゃない?」
「自分で誘ってからそれ言う?」
「ごめんっ!」
足を進めながら、私は和希の隣で手を合わせる。
「まあいいって。……俺も用事、あった…から」
和希はやけに小さい声で最後の言葉をもらした。
「だから、その…俺のときは待たなくていいから。家も隣だし、迎えにいくよ。」
どこかソワソワしている和希に、うん!と返すとなんだか嬉しそうな色をにじませた。
「あっ!てか既読とかめっちゃ早かったね…」
「えっ、いやまあ!別にたまたまメッセ開いてただけだから」
和希がなぜか急いで説明に入った。
…さっきから和希の様子がおかしい気がする。
「和希?どうかした?」
「へっ?!う、ううん!だいじょぶだよ!」
明らかに落ち着いてない。
そう断言できるほど動揺が激しい。
「でも、…おまえはその、なんともないの?」
「えっ?私?」
別にふつうだ。でもこのあと、緊張するタイミングが来るから…
―いや待てよ。
――この和希の動揺ってまさか!?
―――気づかれてる?!?!
「「っ!!?」」
和希とばっちり目が合った。そしてすぐに離れる。
そ、そうだった!
和希に告白しかけたのがバレてるんだった!
「「………/////」」
頭のすべてが全部焼け焦げそうな感じを感じる。
それからどれくらい立ち止まってたのか分からないけど、次に切り出したのは和希だった。
「コンビニ…、行こ…?」
顔を表に向けないまま、そう宣言して歩き出した。
コンビニで何を買ったかは忘れた。コンビニに入ったのかも分からない。頭が真っ白で、爆発しそうなくらいだった。
そんな帰り道のことだった。
「悠希。」
久しぶりに耳から音が入ってきた瞬間に、和希が私の正面に立っていたことに気付いた。
赤らんだ顔がかわいらしくて、それを落ち着いてるように見せるかっこいい目元で、口が震えているのが締まり悪い、そんな和希の言葉だった。
「俺はおまえが好きだ。」
「…え」
「でもね。だからこそ、言わないといけないことがある。」
和希は私の声より大きく続けた。
「…俺は自分が嫌いだ。大嫌いだ。
とても弱くて、情けなくて、自分勝手で、強がりで、泣き虫で、勇気がなくて、そんな俺が、ずっと嫌いだった。」
和希の目が潤みを催す。
「だから悠希、おまえと一緒に居るためには、こんな俺じゃだめだって分かってたんだ。」
私の声には、和希と話すだけの力がなく、ただずっと、よく分からない声のような音が止まらなかった。
「悠希。俺ってダメなんだ…こんな俺じゃ……」
和希が首を振って、もう一度私のまっすぐに入った。
「俺は変わるんだ。…絶対に。おまえと一緒に居られるように。おまえを一生守れるように。」
「ねえ…、悠希。もしも、俺がそうなったら、……もしも、俺が強くなったら、」
和希は一番の笑顔で笑った。
「俺の手を取ってよ!おまえが助けてくれたあの日みたいに!
今度は俺が、おまえだけの特別になるからさ!!
だから、
それまで待っててくれますか。」
心から声が出るときがある。
楽しいとき、感謝するとき、
そして今日は、嬉しいとき―――
「はい!」
「あのー悠希さーん。」
「はーい。」
まだ夜の帰り道、和希が私に言う。
「待っててって言ったけどさ、しがみついて待たなくていいんだよ?」
私は和希の左腕を強く握っていた。
「ふふーん!だって『俺のときは待たなくていいから』って言って即効でウソついたバツなんだもーん!」
和希は呆れたように笑って、そのまま少しの間一緒に歩いた。
「もうすっかり遅くなっちゃったなぁ。……あっ!」
急に大きな声が聞こえて私は耳をふさいだ。
「びっくりしたぁ。どうしたの?」
和希はぷるぷると涙目の顔をこちらに向けた。
「俺、スマホ家に置いてきた」
「えっ!?あのネット中毒症候群の和希が?!」
「誰がネッ中症だよ」
とりあえず時刻は大問題という訳ではないことを私のスマホの時計で確認し、そもそもスマホがなくても問題なかったため、2人で落ち着いて帰った。
「ココロは戸締まりして寝てるだろうから、起こさないようにしない…と……」
それぞれが家に着く直前、ココロちゃんが不安げに空を見上げているのを見つけた。
「こ、ココロ?夜に外出ちゃ危ないでしょ!!」
お母さん口調になった和希をさておき、ココロちゃんの隣まで行って屈んでみた。
「ココロちゃん?どうしたの?」
「ううん、それよりうまくいったの?」
え?なんで知ってんの?
小さく親指を立てると、ココロちゃんは嬉しそうに口元をゆるませた。
「じゃあ、わたしねる。」
「えっ!?このために起きててくれたの?ありがとー!!」
コクりとうなずいたココロちゃんに感謝を伝えて、和希とココロちゃんとお別れした。
家の鍵は閉めて来てたから、鍵を鍵穴に差そうとドア元でガチャガチャしていた。
「(ふふっ。そっか、私、実質和希と…。ふっ。ふふっ。あははっ!)」
そのとき、辺りがまぶしい光で埋め尽くされた。
目がくらむ中、なんとか隣でまだ外に居た和希たちの影が目に写る。
「クッ!!和希ッ!!!」
「来るな!!!!!」
私が伸ばした手を、和希の大きな声が阻んだ。
光の中、わずかに一瞬だけ和希の顔が見えた。そう、一番の笑顔だった。
1度だけ私の名前を呼び、この言葉が光を縫ってゆっくりと、はっきりと聞こえた。
「ごめん」
こんなにも記憶に残る言葉は、初めてだった。
次第に光が薄れる。そこに和希とココロちゃんの姿はない。そこにあったのは、大きくて赤い光で描かれた―――
「魔方陣……!?」
ぼくからも笑顔が消えました。
ストックがなくなったんです。
次回更新までに4話の改稿をガッツリ行ってクオリティ上げるんで、そのときはぜひ!
頑張ります!