第4話b¹
もうちょっとで一段落ッ!がんばろおっ!
◇◆◇◆◇
「………」
軽い紙を重い手で何度もめくる音がする。夕日が傾くその度に私は緊張が高まっていくのを感じた。でもそれは、次の一瞬で打ち解けた。
「良いですね。皆が楽しめそうな良い企画です。」
先生の言葉を聞いて、私と和希は笑みを交わした。
「それ、早瀬君のおかげでできた企画なんです!!」
私はなぜか得意げになっていた。それは、和希と協力することでいい企画を作れた気持ちの良さからか、ただ和希と並んで何かを成し遂げた心持ちの良さからか、何から来た感情かは分からない。でも、なんだか嬉しかったんだ。今この気持ちを表すのは、それで十分だ!
「い、一番がんばったのは!笑広さんだと思うので…」
和希が慌てるように謙遜する。私は小1の頃から和希の近くに居たから、和希という人について理解してるつもりだ。だから、褒められるのに馴れてなくて照れてる和希を、和希らしいと思った。
「ふふっ。では、この企画に沿って本番のための準備をしていきましょう。この生徒会企画では全校生徒を動かすことになるので、我々の対応が成っていないと多くの人に迷惑をかけてしまいます。その覚悟を持って、どんな事態にも対応できる準備をしていきましょう。先生もできる限りのサポートはしていきます。」
先生は、すでに覚悟を決めているような眼をしている。さすが大人はいろんな経験をしてきたんだなぁと思うほどだった。
「あの、その件なんですけど…」
和希は少しの間を取って声を入れた。
「昨日、帰った後に色々考えて、対応マニュアル…ではないですけど、みたいなモノは作ってきてて」
言葉と同時に、10枚にも達しそうな、文字や図表でびっしりと塗られているプリント類が出て来た。
「その、一回これを見てもらって、それで他に足りないところがあったら修正していくって感じでいいですかね…?」
和希は苦笑い気味にプリントの説明を始めた。
和希のおかげで、また1つ仕事が進んだ。まるで至れり尽くせりだ。
―――でも、それって…
「ねえ、なんであんなことしたの」
夕方、学校からの帰り道、私は愛想なくそっぽを向いて和希に問いただした。
「え?…あんなことって、なに?」
和希は首を傾げて不思議そうな顔をした。
「和希が勝手に仕事を進めたことっ!私、怒ってるからねっ!」
なんだか語気が強くなってしまった。和希が焦って困った顔になる。きっと私が何に怒ってるのか見当がつかないんだろう。
「……えっと、あの、なんで怒ってるのか聞いていい?」
ほらやっぱり。私は和希のことなんでも分かるのに、和希は私のことどうでもいいの?って、そんな気持ちになる。そんな自分勝手なこと、考えたくないのに…
「む、無理なら無理でいいんだけど…、なんで怒ってるのか聞かせてくれる?」
和希はどこか怯えたように震え、弱々しく私に向き合おうとしていた。
和希はスゴいことが出来る人なはずなのに、なんでいつも何かが足りないんだろう。何よりも大切なものを、いつも忘れてるじゃん…
私の口がはっきりと、それでいて荒っぽく闇を吐き出した。
「いいよ!分からないんなら教えてあげるっ!和希は私のこと考えてないんでしょ?」
―――……そうだよね。
「確かにがんばって企画を進めてくれたのは感謝してるけど、でも私、和希にあそこまで頼んでないよっ!!和希が手伝ってくれて、嬉しかったけど、元々は私の仕事なんだから和希に大きな負担にならないようにって、あくまで私が主体的に進めなきゃって、いっぱい考えてたのに…、私がばかみたいじゃん。」
―――私だって、いろいろ頑張ったんだよ。
「和希は頭いいもんね。最初から私抜きのほうが上手くいってたって思ってるよね。」
―――ッ!?ちがう…!和希はそんなこと思わないはず!!
「だからもういいよ。私が1人でやるよ。」
―――や、そんなことが言いたい訳じゃない…!
口が勝手に終わりを告げて、足が勝手に地獄へと歩き出した。でも、私の勝手で落ちた地獄に和希は付いて来ちゃいけないんだ。
「待って!」
和希が久しぶりに大きな声を出した気がして、無意識に足が止まった。でも、何を言われても今更戻ることはできない。それは私が選んだ道だから。
和希が言ったのは、とても和希らしい言葉だった。
「ごめん」
やさしい声が私を和希の近くに強くとどめようとしてくる。和希の顔を見た。とても悲しそうな顔をしている。
なんで私は、私のために頑張ってくれた人にこんな顔をさせてるんだろう。
和希は夜遅くまで、誰に言われた訳でもないのに頑張って作業をしてくれていたんだ。なのに、そんな和希を私が否定してどうすんだ。
和希は褒められると照れるけど、人一倍嬉しそうな顔をするのに。
人のために何かしてるときが、一番楽しそうな顔をするのに。
何で私は、和希にこんな顔をさせてるんだろう。
「ごめん、俺、何も分かってなかった。何も考えてなかった。
いやー、…ばかなのは俺のほうだね」
和希が力なく笑っていた。
ちがうよ。そうじゃないんだよ。
私は和希に、一番の笑顔を見せてほしいんだよ。
「…ごめんね和希。私、和希が傷つくことばっかり言って…」
和希は一瞬固まって、それから安心したように無理矢理作った笑顔を崩した。
「よっかっっったああぁ、嫌われたかと思ったぁ。」
和希は膝を地面につけ、しばらく立ち上がれなさそうなほど脱力した。そこに夕日が差し込む。
「…ホントにごめんね!つい言い過ぎた。」
「『つい』ってなんか本当は言いたかったみたいじゃん。」
和希はほんのりニヤついて反応してくれた。
「ごめん、ついつい本音が出ちゃった」
「え、確信犯タイプ?」
今度は呆れたふうに返してくれた。
さてと、と私は和希のそばに寄っていく。夕日を背中から受け、屈んでいる和希の上に私の形の影が浮かび上がった。
迷いなく和希に手を差し伸べて、私はこう言った。
「一緒に帰ろ!」
間を置いて、和希は満開の、一番の笑顔になる。
「うっス!」
「!」
いつもどこかが幼くて、それでもずっと頼りになって、見ているほうも和んでくる、そんな素敵な希望の光。
…そっか、私はこの笑顔が大好きだったんだ。
◇◆◇◆◇
懐かしいな…
そんな大切なことを今思い出すなんて、告白しかけといて情けない。
「ココロ、それ美味しい?」
「おいしい。はじめて食べた。……すごいすきかも」
「おーマクドさんスゲー」
日も高くなり、3人でハンバーガーを食べている。でも、和希はココロちゃんにデレデレしてて(まあ基本ココロちゃんに軽くいなされててウケるけど)、素直に楽しめないってのが正直なところ。
たまに目が合うけど、やっぱり耐えられなくてどっちかが顔を伏せちゃう状況が続いてる。
ていうか絶対気付かれてるし、なんか変に意識しちゃうし…
はぁ失敗したかも…
だぁーっ!!くよくよしててもしゃーないし、もうちょいがんばろ!
させねぇぜ!
速攻魔法【作者権限】!!
ペンは剣より強ェンだよっっ!!!