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虐待赤ずきんと人食い狼

 


 昔々、とある森の近くに小さなおうちがありました。そこにはふくよかなおばあさんが1人で住んでいました。


 人食い狼はその森に来ると、おばあさんをとても美味しそうだと思い、よだれをたっぷりと垂らしました。

 しかし、子供と孫がいると聞いて同じく美味しそうな人間だろう、まとめて食べてやろうとわくわくしながら我慢しました。


 狼にとって美味しい人間を食べることは何よりも幸せなことでした。


 そんなある日、孫の赤ずきんと呼ばれる少女がおばあさんの家に来ると知った狼は動き始めます。





「赤ずきんや、このバスケットを持っておばあちゃんを訪ねに行きなさい」


「おばあちゃんのおうちの近くに人食い狼が出たって噂だよ。食べられてしまうよ」


「お母さんの言うことが聞けないのかい? おばあちゃんにバスケットが届いたら、お前なんてどうにでもなってしまえばいい」



 赤ずきんはびくびくしながらもおばあさんの家に向かいます。


 おばあさんの家へと向かう道の近くには花畑がありました。

 赤ずきんは自分のプレゼントを喜ばれたことなんてありません。それでも、誰かに喜んでもらいたいという気持ちでおばあさんに花束を作ります。




 おばあさんのおうちに着いてドアをノックすると、「腰を痛めてベッドに横になっているから、1人で入っておいで。よく来てくれたね」と初めて赤ずきんは歓迎されました。


 おばあさんのふりをして横になっていた狼は赤ずきんを見て驚きました。

 おばあさんはまんまるとした美味しそうな人間で、その子供もとっても肉付きの良い大きな人間と聞いていました。それなのに孫の赤ずきんは棒みたいにガリガリで顔色も悪く病人のようだったからです。


 意地汚い赤ずきんのお母さんは赤ずきんの分までごはんを食べ、他の年ごろの子に比べ赤ずきんを働かせすぎているのです。



「顔色が悪いよ、赤ずきん。遠いところから来て大変だったからだろう。一旦座ってお水でもお飲み」

 おばあさんの声まねをした狼がいいました。


 この時、赤ずきんはベッドの中のおばあさんは偽物だと確信しました。

 おばあさんはいつもくたくたの赤ずきんに暴言を吐いて鞭で打つのです。


 赤ずきんがお花を渡そうとすると腕にあるたくさんの傷跡が見えました。



「赤ずきんや、どうしてそんなに怪我をしているの?」


「私がお母さんを怒らせてしまうからです」


「赤ずきんや、どうしてそんなに痩せているの?」


「ご飯が少ししかないからです」



 こんな風に狼は赤ずきんにたくさんの質問をしました。

 狼は母親は本当にクズで最低な人間だとしみじみ思いました。


 赤ずきんは自分も質問をしたいと思いました。おばあさんのふりをしているのでおばあさんと呼ぶことにしました。



「おばあさん、おばあさんの腕はどうしてそんなに大きいの?」


「それはね赤ずきん、お前のことを抱きしめるためさ」


「おばあさん、おばあさんの目はどうしてそんなに大きいの?」


「それはね赤ずきん、かわいいお前の姿をよく見るためさ」


「おばあさん、おばあさんのお耳はどうしてそんなに大きいの?」


「それはね赤ずきん、お前の話をよくきくためさ」



 そんな風にたくさんのお話をすると赤ずきんは疲れて眠ってしまいました。


 狼は赤ずきんを可哀想に思っていましたが、痩せていて食いごたえがないからだと1人で言い訳をしながら赤ずきんを食べませんでした。




 狼はその後赤ずきんに毎日たくさんのご飯を食べさせました。

 おばあさんのおうちの備蓄がなくなると、狼は自ら狩りに出掛けご飯を食べさせました。



 狼は健気で働き者で優しくてかわいい赤ずきんと過ごす日々が幸せでした。

 赤ずきんは優しくて強くてかっこいい親切な偽物のおばあさんが大好きでした。

 赤ずきんは生まれてから今までで一番優しくされて楽しくて幸せな毎日でした。

 お母さんやおばあさんに傷つけられた心も少しずつ回復していきました。



 幸せな日々を過ごしていくと、赤ずきんは普通の人間より少しふっくらとした健康的な女の子になりました。

 狼は人食い狼だったので、近くにいると食欲を我慢できなくなっていきました。


 美味しそうな人間を目の前に我慢することは、人間を食べることが何よりの幸せな狼にとってつらいことでした。




 そんなある日、葛藤に苦しんでいる狼を見て赤ずきんは言いました。


「おばあさんは人食い狼さんなんでしょう? おばあさんのお口がそんなに大きくて、牙がそんなに鋭いのは人間(わたし)を食べるためだと知ってるのよ。いったい、いつになったら私をたべてくれるの?」


「いつ気がついたんだ!?」


「狼さんがおばあさんではないことにはすぐ、狼さんってことは数日後よ」


「食べられることが怖くはないのか? 嫌ではないのか?」


「私、狼さんと過ごした日々が人生で一番幸せだったの。私にできることは私の体をあげることだけだから、食べてもらおうと思ってた。でも、本当に幸せで楽しくて狼さんと過ごす日々を終わらせたくなくなってしまって……。狼さんが苦しんでいるのに、今まで言い出せなくてごめんなさい」

















 狼は1つの決断をしました。








 その結果、狼は1つの幸せを諦め、1つの幸せを手に入れましたとさ。



                おしまい




 狼はおばあさんを食べた後、最後に1人だけ人間を食べて、それからは1人も食べなかったそうです。




 お読みいただきありがとうございます。


 ここからは、読まなくても大丈夫です。

 

 いいねや感想、ブクマ、評価など反応いただけると嬉しいです。


 厳しいご意見も歓迎ですが、豆腐メンタルなので優しめに言ってくださると助かります。



 「良い」、「好き」など二文字程度の一言でびっくりするほど喜びます!!



 感想、評価、ブクマありがとうございます。

 皆さんのおかげでランキング入りできました。本当にありがとうございます。



 お時間がありましたらこちらもどうぞ。今作と同じく幸せをテーマにしたヒューマンドラマです。


「ありきたらない恋人契約と一途な初恋の行方〜ヒロインになれない私は〜」

 

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[良い点] 前提からして意表を突くものでしたし、広く知られる展開だけではなくて、やりとりももじっていたり、短編ということで、多くは語られずとも狼と赤ずきんらが過ごした時間が容易に想像できる描写があった…
[良い点] いい話でした。 [一言] 自分はハッピーエンドが好きなので、狼が最後に食べたのは、赤ずきんのお母さんと思うことにします。 狼さん、赤ずきんちゃん、お幸せに!
[良い点] 良い [一言] 好き
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