手合う武器
「それではイアンさん、スレインさん、ヨウさん。貴方達はこれより立派な冒険者となり、自分の為に国の為に、沢山貢献するのですよ!これは祝金の100ルアーになります!大切に使ってくださいね!」
少女の手に握られた袋を各々が受け取り、その場を後にすることにした。これ祝金詐欺とか大丈夫なのかな……。
と、とりあえずそれは置いといて二人には助けて貰ってばかりだったし、なにかお礼をしたいところである。そんなこんなで今はエインハルの街を三人並んで歩いているところだった。
「そういえば宿っていくらくらいだった……?」
「そうだなー。一人3ルアーだな。」
そう聞いた私が袋に手をかけようとしたところ、なにかを察したイアンに手を掴まれる形で遮られた。
「僕達の善意なんだからヨウちゃんが払うことはないよ。このルアーは自分のために……これからの冒険の為に使ってほしい。これは僕の独断じゃなくて、スレインのプライドも賭けているんだからね。」
「えっ……あぁ、ありがとうございます。」
そう言ったところで、スレインが後ろから背中をバシッと一度叩いてきた。頭が上がらないし、突然なんだとは思うが別にこれくらいされても構わないと思っている。
「友達なんだからそーゆー堅苦しいのはナシナシ!ヨウはイアンみたいに律儀なところあるけど、それが変なところいってるからな!親や友達の前でもそーゆー口調なんか?」
「ごめん……いや、えっと……うん、ありがと。」
素っ気ない感じで返してしまう結果になってしまったが、スレインはとても満足そうに笑ってくれた。心なしかイアンの表情も先ほどよりも笑みが見えている気がする。やはりこういう軽い感じで来てくれた方が彼としても助かるようだ。
「イアン……スレイン。二人ともありがと。もう少しだけ付き合ってくれないかな。武器だけ欲しくて。」
勇気を振り絞ってなるべくフレンドリーに接するように努めた。それに対して二人は快く頷き、了承してくれたのである。
なんとも優しく紳士的なのだろうか。優しさが突き抜けている善人そのものの振る舞いであった。
≧≦
「いらっしゃい……。」
街中にある、目的の武器店にたどり着いた。そこは一般的に流通している武器のみならず、鍛冶屋としての側面を持ち合わせているらしく自前の武器も取り扱っているのだという。店主の見た目はかなり頑固そうな親父といった感じで初心者にはあまり交渉に取り合ってくれないが、それでも彼の出来は素人の私でも良質なものだとわかった。
「……短剣あたりがいいかな。あまり重い武器は筋力的に厳しいし……。」
全体的に重圧がのし掛かってくるような大振りな武器をメインに取り扱っているらしいこの店は、残念なことに私と相性が合わないようだ。物は試しにと初級向けの槍を持って見たものの、私の力では倒れないように支えるのがやっとというくらいで、持ち上げるなんて出来っこない。ハンマーを振り回す美少女なんて所詮妄想の世界じゃけえ……。
「ヨウはアサシンやシーフ系統だから短剣辺りがいいと思うよ。」
イアンはやはり正統派といった感じでナイフを勧めてきた。私の貧弱さのことも把握してくれているようで、一緒に手触りや質感を確認して自己流とはいえ、私のために選んでくれているという感じだ。マジ聖人。たぶんモテる人って感じがする。
「別に〈アサシン〉がハンマー持っちゃいけないなんてルールはないんだぜ?〈テラー〉としてはインパクトある武器の方が恐怖を高められると思う!!」
スレインは手に持つ棘付き棍棒を振り回しながらそう言った。彼の言い分は理解できるんだけど……って感じかな。
せっかくの意見を無下にするのは悪いと思うがやはり短剣か刺突剣あたりが一番合っているのかもしれない。少なくともスレインのあれは盗賊っていうか蛮族だ。
「ま、一端の〈テラー〉なら正直なところ武器なんていらないんだが……それじゃあ商売あがったりだし、最近腕によりをかけて造った試作品なんかはどうだ?腕によりをかけたおすすめだ。」
これまで口を開かなかった店主の男がそう言って、どこからか鉄の塊のようななにかを出した。鉄か金属かをふんだんに使ったそれは銀色をした剣らしく、先端が丸っこく細長い見た目をしているのだが、振り下ろす刃の部分にはギザギザの棘が施されている。
店主が柄の部分を触れると棘の刃がガタガタと震えるように動く……あっチェーンソーだこれ。チェーンソーと剣が合わさったチェーンソードってやつだこれ。世界観絶対間違えてるって。
「ひっ……!?」
「六芒の四……〔雷土〕の力が使われているね。力が枯渇するまで動き続ける魔物のように喰らい付いていく……そんな感じがするよ。」
スレインが驚きイアンが武器について分析していたが、それってただの機械じゃないですか。この世界にも機械ってあったんですね驚きです。魔法と機械が両立する世界ってのは中々見ないけど、結構この武器に興味が湧いてきた……わけないって。
「正直なところ高値で売りたいってのが本音だが、近年の冒険者は皆〈スクラーマの武具店〉に買い物に行くせいで目には見辛いが経営が就かなくなっているんだ。嬢ちゃんまだ初心者だろう?今なら55ルアーでまけとくよ。」
「「これが55ルアーだって!?」」
突如二人が驚愕したかのような大声を出した。私個人あまりこの世界の価値観というのはよくわからないのだが……宿一泊が1人3ルアー……ナイフ等の初心者向け武器が5ルアー、一式防具を揃えるのに頭、胴、手足に30ルアーと考えると実に20泊近くでき、防具一式以上の代金をこの魅力のよくわからない武器に費やせということだ。
結構ぼったくりだとは思うが二人の価値観はそうではないらしい。
「たっ……高すぎるやろ!!」
「なんてぼったくりなんだ!!」
あ、私と同じ考えだったらしい。
「そんなこと言ってもな。〈クロム鉱石〉を武器全体に行き渡らせて、かつ……」
「この店主、前まではプライドの高い一級鍛冶屋として名を馳せていたんだけど……これじゃあぼったくりもいいところ。信用していたが、まさかこんな詐欺師になっていたとは驚きだ。ここに連れてきてしまって本当に申し訳ない。」
イアンが店主の機嫌を損ねないように体を隠しながら、私に耳打ちして謝ってきた。確かにこの武器はちょっと世界観がズレていると思うし、私自身に扱えるかはわからない。
かなり高い買い物になることは間違いないが、買わずに損をするくらいなら買った方がいいと言う考えが私の中にあった。
それに、他の武器が特別良いって訳じゃないしな。
私は店主の勧めた武器を一度持ってみる……思ったより軽いな。そして感想を頭に留めたあと、柄に取り付けられたスイッチらしきものを押してみる……がなにも起こらない。
頭で動かすように念じて触れてみると、それに呼応する形で刀身全体がガタガタと震え出す。
「ふうん……いい子だね。」
「イアン……ヨウが怖いんだけど。」
「〈テラー〉にはピッタリなんじゃないかな……アハハ。」
ひとしきり武器の質感を試してみた結果、私はこの武器を買ってしまっていた。因みに理由なんてものはない。
結構高い買い物をしてしまったようだ……と一気に中身が半減して軽くなった袋を寂しそうに見つめながら、武器店を後にする。
二人は「まぁ君の決めたことだし」と納得はしてくれていたが、やはりぼったくりに引っ掛かったカモみたいなものだな、という目を少なからず向けているのがわかった。
それとは別に武器というのは結構目立つもので、時折冒険者からの視線を浴びることがある。服装も制服のままだったし当然といえば当然だったかもしれない。
「……二人ともごめん。」
「ヨウの決めたことならいいんじゃねーの?買って後悔だっけ?その理屈もわかるっちゃわかるしな。」
スレインがそう言ってフォローしてくれる。イアンの方もそれを頷いて肯定してくれるが、やはりどうしても距離を感じてしまう。
「防具……はなにも買わなかったのか?」
「あまり可愛いのがなかったから。」
次いで空気感を直そうとスレインが問いかけてきてくれたが、それによって私と彼らの価値観がズレているということに確信を持ったのはいうまでもなかった。
周りの冒険者を見ても、皆露出を最低限に済ませた鎧を纏っていたり、布の服を着ていたり……せっかくの顔やスタイルの良さが全く活かせていない服装ばかりであった。
「…………ごめん。」
私のため息混じりの謝罪。聞いている方も気分が悪くなるというのはわかっているのだが、価値観の違いはそう易々と埋められるものではないということもわかっている。
この世界の人々はお洒落や娯楽に疎いということにもっと早く気づくべきだった。
「大丈夫だよ。」
「仕方ないって。100%同じやつなんてどこ探したっていやしないさ。」
二人は私のことを考えた上でフォローしてくれている。本当に優しい人達だ。この世界の価値観に囚われた、純情で……素敵な人達。そんな二人と一緒に行動することに負い目を感じてしまっている。自分勝手な振る舞いで、これ以上彼らを巻き込む訳にはいかない。
「……ありがとう。後は大丈夫だから、少し一人にしてほしいな。」
私は感謝を込めてそうお礼をしたあと、二人の返事を待つことなく踵を返しその場を後にする。
武器も買って冒険者としての登録も済ませた。これ以上二人を巻き込む理由もないし、一緒にいるだけで二人に迷惑を被ってしまうかもしれない。
「……。」
……それに、私にはやりたいことだって出来たのだから。
プロローグはここまでです。




