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『初心者』だけど、冒険者になれますか?  作者: クジラ
第一章 初心者《ビギナー》
2/2

2.ステータスチェック

時計が無いと時間表記が面倒なので、元からあった設定にします。




冒険者になって初のクエストは、草毟りという雑用レベルのものであった為に、比較的スムーズにこなすことができた。

ただ、草毟りが終わった後がクエストの本番だということを新人の彼は知らなかった。


「ふぅ〜……庭園の草毟りは終わりましたよー!」


「あぁ、ありがとうねぇ、エル君」


「いえ、仕事ですから」


草毟りの依頼主である老婆が、シワだらけの顔に笑みを浮かべて礼を言ってくるのに対して、彼ーーエルも笑顔で答える。


「ここは主人と買った思い出の家なんだけど、どうも広すぎたみたいでねぇ。主人が逝った後はこうやって手入れするのも一苦労なのさぁ」


どっこいしょ、と近くにあった手頃な岩に腰を落ち着けると、老婆は何やら自分語りを始めた。


「へぇ、そうなんですか」


「主人が逝ってもう十年になるんだけどねぇ。幽霊にでもなって未だにここに居るんじゃないかと思うと、庭を荒らしっぱなしにするわけにもいかなくてねぇ」


「はぁ」


「それでまぁ、ギルドとやらに依頼を出したんだけどねぇ。なかなか受けてくれないもんだから困ってたのよねぇ」


「そう、ですね」


「いやー、あなたのような若い男の人が来てくれて助かったわぁ」


「それはどうも。えーと、それで依頼の方なんですけどーーー」


「ーーーここももうちょっと昔は綺麗だったのよぉ」


話を切り上げて、依頼書にサインをお願いしようとエルが口を開くが、それに被せるようにして老婆のマシンガントークが放たれる。

まるで、自分の話が終わるまで依頼達成はさせん、と言わんばかりに……。


エルとしては早めにギルドへと戻って、報酬を頂いたらそのまま今晩の宿を探そうと思っていたのだが……。

老婆の話はなかなか終わらない。


「それで主人は、ちょっとシャイなところがあるもんでねぇ。あまり都会じゃないこの辺りに引っ越すことになったのよぉ」


「……そうですか」


通常の沸点が低い冒険者たちならば、こんな長話に付き合ってられないと話をぶった切ってさっさと依頼書にサインを書かせただろう。

しかしながら、エルには自分本意な行為を取れるようなろくでなしではなかった。

むしろ、お人好しの部類であった。


こうして、一人暮らしの老婆の世間話に相槌を打ちつつ、依頼書にサインをしてくれるのを静かに待つようになった。





「ごめんなさいねぇ、ちょっと話が長くなってしまったわねぇ」


「いえ、そんなことは……」


「ふふっ、そう言っていただけると助かるわぁ。これ、サインしておいたから持っていってくださいねぇ」


「はい、ありがとうございます」


すっかり日が暮れて、家では夕食が振る舞われているであろう時間帯になった。

長々と興味のない話を聞かされて笑顔が少し曇り気味になっているエルは、これ以上老婆の話に付き合ってられないと早足でその場を後にした。


そして、そのままの勢いでギルド内へと向かうとカウンターにいる受付嬢に依頼書を渡した。


「あれ?随分と遅かったですが、何か不手際でもございましたか?」


「あはは……いえ、特には。それよりもクエストの方をお願いします」


「かしこまりました。少々、お待ち下さい」


苦笑いを浮かべながら誤魔化すエルの態度に、依頼者である老婆が長話を彼に語って聞かせたんだろう、と一瞬にして見破った受付嬢はそのことには深く突っ込まずにクエスト達成の旨を報告書に記入した。


「はい、これでクエストは終了です。後、こちらがクエスト達成の報酬金、銅貨三十枚となります。ご確認ください」


「はい。では、失礼してーー」


銅色の硬貨を一枚ずつ丁寧に数えると、手渡された硬貨の数はぴったり三十枚あることが確認できた。


「銅貨三十枚、確かにいただきました。後、これから宿屋に泊まろうと思っているんですけど……どこか安めのところを知りませんか?」


「それでしたら、ここを出て右側に大きな剣と盾の絵が描かれた看板を掲げた宿屋がありますので、そこに向かったらどうでしょうか?この辺りでは結構お安いかと思いますが」


「そうですか、ありがとうございます。では、そちらに向かわせていただきます。また、早朝にここに来ますので、今後ともよろしくお願いします」


「はい、お待ちしております」


ニコッと笑みを浮かべて見送る受付嬢とは対照的に、少しだけ疲れた笑みを浮かべてみせたエルは、重い足取りでギルドから出ていった。





午後8時。

冒険者ギルドは基本的に二十四時間経営のため、エルの対応をした受付嬢は夜番の人と交代だ。


「ふぅ〜……やっと、一日が終わったぁ〜」


背を反らして大きく伸びをする彼女は、それなりに豊満な胸が強調される形となり、近くにいた男性の冒険者から視線を集めているのだが、気付いた様子はない。

そのまま数十秒ほど伸びを続け、凝りをほぐすと、今日見ておかなければならない資料を持って休憩室へと向かった。


窮屈だったギルドの制服を更衣室で着替え、ラフな格好となった受付嬢は、持ってきた資料(と言っても、エルのステータス情報だけなのだが)を見ようとして、不意に後ろから脇をくすぐられた。


「ーーーひゃっ!?誰!?」


「にゃはははっ!私だよ、私ぃ〜。いやぁ〜、相変わらずルミは良い反応するにゃ〜」


「ーーって、その声はアイルね!」


一瞬、不審者か何かが襲ってきたのではないかと冷や汗が出たものの、聞いたことのある声に脱力する。

振り向くと、にゃははは〜、と笑いながらルミの胸を揉んでいる猫獣人の姿があった。


「……同性同士でもセクハラが通るって知ってる?」


「にゃはっ、そんなカタイこと言うにゃよ、ルミ!私とあにゃたの仲じゃないかにゃ?」


「だとしても、限度があるでしょ、限度が……」


そう言って、猫獣人、アイルの手を振り払うと、休憩室の椅子に座り直した。

受付嬢であるルミとは違って、ギルドの警備員として働いているアイルは、種族的にもレベル的にもルミに振り払われるほど非力ではないが、アイル的には冗談だったのか、すぐに手を引っ込めてルミの隣に座る。


「んー?新しい冒険者くんのステータスチェックかにゃ〜?」


「そうよ。私が彼の登録を引き受けた以上、ステータスチェックの役割はまず私にあるはずだからね。ただ……」


「うわぁ〜、これはなんとも歪なスキル構成だにゃ〜」


少しだけ引きつった笑みを見せるアイルに、ルミも無言の肯定の意を示す。


真っ白な机に置かれたステータスカードには、このように表記されていた。



ーーーーーーーーー


名前 エル

種族 人族 年齢16

ジョブ 『初心者』Lv.27


HP 115

MP 58

筋力 30

敏捷 21

耐久 39

器用 23

魔力 12


スキル 『物理耐性』Lv.6『精神苦痛耐性』Lv.7『毒物耐性』Lv.5『火耐性』Lv.2『剣術』Lv.3『投擲術』Lv.3


ーーーーーーーーー


「ジョブの『初心者』とか初めて聞いた〜、とか耐久の数値がえらく高いね〜、とか色々言いたいことはあるんにゃけど……。耐性系のスキルをこれだけ取得できるとか、ちょっとヤバイ奴にゃ。ルミも見てて何か感じなかったのかにゃ?」


「いえ、私は全然……というか、普通の人に見えたけど……」


「ふーん……これだけの耐性系スキルを取得しておいて、普通に見えるっていう時点でそいつはどっかおかしいにゃ」


スキルには取得難易度というものが存在し、C〜Aの難易度が設定されている。

Aが最高難易度、Cが最低難易度である。

そして、エルが持っている耐性系スキルとは全てが最高難易度Aの代物である。

成人男性が一つ取得していれば優秀、複数となれば天才とまで評されるそれを、彼は四つも取得しているのだ。

異常と言わざるを得ない。


「……耐性系スキルは、実際にそう言った目に合うことでしか手に入らないと言われているにゃ」


「火耐性なら火傷、物理耐性なら暴力行為、でしたよね……?」


「うにゃ。にゃから、このスキルを持っている奴は大抵が拷問のような訓練を受けさせられている連中ばかりにゃ。とても、普通ではいられないにゃ」


アイルが断言する様を見て、今一度エルの様子を思い浮かべてみるも、ルミには彼が健常者にしか見えなかった。

少なくとも心に闇を抱えた人物だとは思えない。


ルミがゆっくりと首を横に振るのを見て、アイルは口を開ける。


「わかったにゃ。彼については、私が調べておくから、引き続き彼が変にゃことしにゃいように見ておくにゃ」


「……お願いします」


ルミはステータスカードの写しをアイルに渡すと、休憩室を後にした。




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