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『初心者』だけど、冒険者になれますか?  作者: クジラ
第一章 初心者《ビギナー》
1/2

1.ただのカモ

どうも、お久しぶりです。

ちょっと新作を書きたくなったので投稿します。

投稿が止まってるやつについては、申し訳ないのですが、これを書いてる途中でモチベを上げつつ徐々に投稿再開出来たらなー、と思ってます。

更新は不定期ですが、必ず一週間に一話は投稿しようと思ってます。

最初は毎日投稿の方が良いかな、とも思ったんですが、自分は継続することが苦手なので調子良いときにガッと書いて、調子悪いときは休む、というサイクルでいかせていただきます。……じゃないと、途中で疲れてエタリそうなので。

こんな感じで気まぐれな書き方をするので、内容も気まぐれの作品となりますが、暇つぶしにでも読んでいただけると幸いです。

更に言えば、ブクマ、ポイントをしていただけるとすごく嬉しいです!


ま、そんな感じで緩ーくやっていこうと思ってます。

長文、失礼しました。




昼下がりのギルド。

飲食のスペースで酒でも飲みながら騒ぐ冒険者が数多くたむろしている中、カウンターの席に座っていた受付嬢はギルドの扉が開く小さな音を聞き取った。


(依頼発注のお客様ですかね?)


冒険者ならば大抵朝から飲んだくれる不真面目な連中か、もしくはおいしいクエストを求めてクエストボードを覗きにくる守銭奴が殆どだ。

故に日中に来る奴は大抵が依頼発注願いを出しにくる人である。

勤務三年目にして冒険者の習性というものを大体理解した彼女は、そう予想して作業の中断と共に顔を上げると、どうやら自分の予想が珍しく外したことを悟った。


入ってきたのは若い男性。

見た目は十代前半と言ったところだが、立ち居振る舞いからしてこの国の成人年齢である十五あたりではないかと予測する。

冒険者の冒の字も知らなそうなポヤポヤした笑みを浮かべながら入ってくる彼は、優男然としていてとてもではないがこの場で飲んだくれている連中と同じ職業に就いているとは思えない。

しかし、それでも受付嬢が彼を冒険者だと判断したのは彼の装備故である。

おそらく、ギルド近くに建てられているヒゲモジャの鍛冶屋から勧められたであろう、局所につけられた革の防具に、腰から下げられた鉄製の片手剣。

そして、頭にもきっちりとヘルメットのような防具を見に纏った姿は、いかにも新人の冒険者と言わんばかりの格好だ。


(あれは、マレイ鍛冶屋さんの新人セットでしょうか?まさかあんな割高の商品を買う人が居ただなんて……)


革鎧と片手剣、それを吊すベルトとヘルメットがセットで銀貨五十枚の価格である。

全部合わせて、と考えるとそれなりには安く感じるかもしれないが、新人の冒険者で買おうと思う人は受付嬢は見たことがなかった。

収入が少ない新人にとって、銀貨五十枚はあまりにも高すぎたのだ。

ヒゲモジャの店主は、これでも負けてやった方だ!と声高々に言っていたが、給料が一般人よりも比較的高い受付嬢でさえ、銀貨五十枚は高いと思うのだから、あまりお得な感じはしない。


そんなお得感ゼロの武器、防具を身につけている彼は、ニコニコと笑みを浮かべながらカウンターへとやってきた。


「どうも、こんにちわ」


「……あっ、はい。どうも、こんにちわ」


今まで対応してきた荒くれ者共は比べ物にならないほど紳士的な彼の態度に、一瞬唖然とするも首を横に振って気を取り直して用件を伺う。


「今日は当ギルドにどのようなご用件でしょうか?」


「冒険者登録をしたいんですけど、大丈夫ですか?」


ニコニコと笑みを崩さずに質問してくる彼に対して、受付嬢も心なしか営業スマイルを割増で輝かせながら説明に入る。


「冒険者登録をするにあたって、特別な資格の取得等の条件などはございません。強いて言えば、登録料が発生することぐらいです」


「おいくらですか?」


「銀貨一枚になります」


「分かりました」


剣を挿しているのとは逆サイドに括り付けられた小袋の中を漁り、彼はスッと銀色に光る硬貨を一枚受付嬢に差し出した。

受付嬢はお金をいただくと満面の笑みで冒険者登録の説明に入る。


「はい、確かにお預かりしました。それでは冒険者制度について説明したいと思いますが、宜しいですか?」


「はい、お願いします」


「ではーーー」


冒険者とは、ギルドに張り出されたクエストを受注し、その成功報酬を獲得することで日銭を稼ぐというその日暮らしの職業である。

主に魔物の討伐を生業としている者が多いためか、気性の荒い奴が多いイメージがあるが、受けるクエストの中には庭の草毟りであったり町の清掃だったりと比較的平和なクエストも存在している。

つまりは何でも屋ということになるだろう。


そんな彼らは、自身でクエストを集めることを手間に思い、クエストの収集はギルドに任せる形となった。

その代わりに、冒険者としての利用規約が設けられた。


一、一般人に迷惑をかけない。

二、ギルドの召集になるべく応じる。

三、月に一回は必ずクエストを受ける。

四、犯罪行為は例外を除いて禁ずる。

五、ギルド内及び冒険者間での私闘を禁ずる。


この五つが規約となっている。

昔はもっと複雑なルールがあったが、脳筋な冒険者には理解できないからとここ百年で改正されたものである。

故に子どもでも理解できるような単純さに変化している。


「一があれば四は要らない気がするんですが……」


「私もそう思うんですけどそれがこうもいかなくてですね……。ここに書かれてないなら何をしても大丈夫とか極端な思考をする方がいらっしゃいますので……」


「なるほど……」


実際、過去にこの四の規約が設定さていなかったころに、一般人に迷惑をかけないからという理由で犯罪に走った者が確認されているそうだ。

もう少しモラルとかマナーを守れよ、と思わなくもない受付嬢だったが、口には出さないでおく。


「冒険者はランク制で、A〜FとAより更に上にSというランクがあります。ちなみにAが上でFが下のランクです」


これはあまりにも考えなしな冒険者たちへの救済処置であり、ついでに彼らの自己顕示欲を満たす目的もあったりする。

百年ぐらい前には、ランクという概念が存在していなかったのだが、当時は己の実力をよく把握もせずにクエストの成功報酬の高さに目が眩んで、危険なクエストへと先走る者が多かった。

そのため、冒険者の死亡率が非常に高く、ギルド存続の危機に陥ったこともある。

流石にこれはマズイと判断したギルド連中は、クエストに危険度と冒険者自身にランクを設けて、自分のランクに合ったクエストしか受けられないようにしたのだ。

一応、クエストのランクについてはそこまで強制力があるものではないので、受けようと思えば何ランクでも受けることはできるのだが……。

危険度が分かりやすく可視化された状態でそれでも命を賭けて挑もうと思うほど、彼らも脳筋だったわけではないようだ。

したがって、ランク制度を実施してからは、冒険者の死亡率が格段に減ったのである。


「なので、クエストについてはどんなに報酬が高くても、出来るだけ自分のランクか、その一個上ぐらいまでにしておくのが身のためかと思います」


「分かりました、肝に銘じておきます。」


ポヤポヤとした雰囲気を纏いながらそう言う彼の表情には、緊張感の欠片も感じ取ることが出来なかったが、もし受けそうになったら再度注意すれば問題ないだろう、と話を進めることにする。


「では、冒険者についての粗方の説明が終了致しましたので、こちらの板に手をのせていただいて、ステータスチェックの方をお願いします」


本当はパーティ登録制度やら個人契約の依頼、クエストの達成期限についてなど細々した説明はあるのだが、一度にそれらを説明しても理解できない冒険者が多いので、その時が来たら随時説明する形になる。


(この人ならちゃんと説明を聞いてくれそうな気がするけど……)


一応、そう言うマニュアルである以上、ただの受付嬢に過ぎない彼女から何も余計なことはできない。

一応、それなりにアドバイスくらいはしようとは思っているが。


ニコニコと微笑みながらステータス盤に手をのせている彼を見ながらそう考えていると、ピーという電子音のような音が鳴り響いた。

受付嬢は手を離していい旨を伝えると、個人情報であるステータスをなるべく見ないように手早くギルドカードに写す。

実際は、この後登録した冒険者のステータス情報をギルド内で共有するため、個人情報保護などは全くされていないのだが、ステータスを見られて気分を害する冒険者も多々いるので、体裁上見ていない振りを装うのである。

写し終えたそれを裏返しにして彼に手渡すと、受付嬢は定型文を口にする。


「では、こちらがギルドカードとなります。紛失の際は、受付に申し出ていただければ再発行することが可能ですが、手数料として銀貨五枚を支払ってもらいますのでご注意ください」


「はい、気をつけます」


彼は自分のステータス情報がギルドに筒抜けになっていることも知らずに、宝物のように丁寧な仕草でカードを受け取った。

その純粋無垢な態度に罪悪感がチクリと受付嬢の胸を刺すが、表情には出さずに言葉を続ける。


「……登録は完了致しましたので、今からでもクエストを受注することができますが、どうしますか?」


「自分はまだ『初心者』なのですが、クエストを受けても大丈夫なんですかね?」


「はい。最初は誰だって初心者ですから、問題はありませんよ。宜しければこちらで初心者用のクエストを紹介させていただきますし……」


少しだけ不安の入り混じった表情を浮かべる彼を、受付嬢は安心させるように優しい言葉を紡ぐ。

彼女の言葉を聞いて、目の前にいる彼は何故か驚いたような表情を浮かべるもそれも一瞬のこと。

すぐさまいつものニコニコ笑顔に戻ると、彼は受付嬢の提案に乗った。


「ありがとうございます。自分は、クエストについて殆ど知識がないものですから、すごく助かります」


「いえ、仕事ですからお気になさらずに。では、こちらのクエストなどは如何でしょうか?」


そう言って受付嬢が提示してきたものは、一軒家の庭の草毟りであった。


「こちら危険度F、報酬が銅貨三十枚となっています。この一軒家はギルドを出て五分ほど歩くと見えるところにありまして、移動時間はそれほど掛かりませんし、ただの草毟りですのでそこまで労働時間も長くはありません。日中という中途半端な時間に受けるにはピッタリなクエストだと思いますが」


などなどと、色々言葉を重ねてはいるが実際のところは不人気クエストを消化させようとしているだけである。

このクエスト、報酬もかかる時間もそれほど掛からないが、プライドの高い脳筋達にとって、これで食いつなぐというのは非常に屈辱的なことなのである。

一部のパーティではメンバーの罰ゲームに使われている程である。


そんな不人気クエストではあるが、いつまでも達成されないのはギルドの沽券に関わるものである。

そのため、受付嬢及びその他のギルド関係者達は、いかに冒険者たちを上手く唆してこのクエストを受注させられるかで、ボーナスがでる事となっている。

月一人で銀貨五枚、月二人で銀貨十枚……。


などと、浅ましい計算が脳内を駆け巡っているのである。


(この前お店に飾られていたブランド物のバッグ……あれがどうしても欲しいのよね〜。その為にも、彼にはこのクエストを受けてもらわないと……)


この手のクエストは、成功不成功を問わず受注さえさせられればボーナスが出ることになっている。

だから、うんと頷きさえしてくれれば彼女は勝ったも同然。

念願のブランド物のバッグを手に入れることができる。


そんな低劣な欲を目の前の受付嬢が抱いているなどと露ほども思っていない彼は、提示されたクエストの内容をチラリと見ると、深く考えもせずに承諾した。


「分かりました。では、このクエストを受けさせていただきます」


「ありがとうございます!すごく助かります!!」


ボーナス獲得を達成した受付嬢は、満面の笑顔を彼に向ける。

容姿の整った彼女の笑みに、あはは……と照れ笑いをしながら彼は個人的な事情を述べた。


「いやー、今日は出費が多かったので、自分としても資金を貯めたかったので丁度良かったです」


出費が多い、という言葉を聞いて自然と受付嬢の視線は彼が身に纏っている高価格の新人セットへと注がれる。

おそらく、ヒゲモジャの店主に勧められるがままにそれを購入したのであろう。

将来、詐欺師などに怪しい壺を買わされそうで少しだけ心配になる受付嬢だったが、今はクエストの受注方法について説明しないと、と気を取り直した。


「……では、クエストの受注方法について説明させていただきますね?こちら、本来はあちらに設置されているクエストボードに張り出されているものを受付まで持ってきていただき、冒険者カードと共に提出していただきます」


そう言って、カードを差し出すように手を前に出すと、彼は銅色のカードを渡してきた。


「ここで私がクエストが受注された旨を記録し、クエストの紙とカードをお返ししますので、これで受注完了となります。分かりましたか?」


普段ならば一度説明して理解できない脳筋共のことなど知るかよ、と確認などしない受付嬢であるが、ボーナス獲得をさせていただいた彼に対しては、懇切丁寧に何度でも教えるつもりであった。


「説明ありがとうございます。では、受注されたということで、その一軒家に向かっても大丈夫ですか?」


「はい、問題ありません」


「そうですか。では、行ってきますね」


今から雑用をさせられにいくというのに、ニコニコと笑みを絶やさない彼の姿に受付嬢は素直に尊敬の念を抱いた。


(よーし、彼をうちの専属にしてしまえば月銀貨五枚のボーナスは確実!上手いこと取り入らないと)


……いや、ただのカモだと判断したようだった。









この世界の硬貨について。

銅貨一枚=百円。銅貨百枚=銀貨一枚。銀貨百枚=金貨一枚。ってな、感じです。

んー、そう考えると主人公は一話目からかなりの出費をしている計算になりますね。

一体、どこからその資金を持ってきたのやら……。

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