特訓
「剣をお持ちになるんですか?」
そう、僕の思いついた作戦には剣があった方が都合がいい。
「うん、今回は剣を使わせてもらうよ。 早く始めよう!」
オウルは正面に立ち、構えた僕に「行きますよ」と一声かけて突進してくる。
相変わらずすごい速度だけど三度共なればさすがに驚かない。
しかし、僕に近づいてくるオウルは急に減速し始めた――いや、足の爪で土埃を撒き散らして惑わせてるのか。
僕は慌てずにオウルを待ち構える。
減速しているとはいえ、それでも攻撃するには十分な速度のオウルが目前にせまり、ついにするどい殺気が僕の背後に感じられる。
まず僕は目の前からくるかもしれないオウルに向けて力いっぱいに足を踏みつける!
空振るのも気にせず真後ろからくるかもしれないオウルに対して体を翻し、左腕を振り上げる!
オウルは恐らく左右からの攻撃も可能に違いない。
今までとは違った攻撃をしてくる可能性は高いし、その攻撃はすでに対応済みだ!
前でも後ろでもなければ横からくるに違いない。
左右どちらにも対応した対策は思いつかなかったので二分の一の確率で左側に的を絞り、右手に持った剣を振り下ろす!
しかし残念にも僕の振り下ろした剣は空を切り地面に突き刺さる……
二分の一を外してしまったのかと思ったけど、一向に反対側からの攻撃が僕には届かない。
するとポンポンと背後から肩を叩かれて振り向くとそこにオウルの姿があった。
心なしかオウルのほっこりとしているように見えたのは気のせいだろうか?
「ディル様。 着眼点は悪くないと思います。 しかし、攻撃を見切ると言う事は攻撃をしてくるであろう全てに対応すればいいと言うものではありません。 今のように攻撃をしない選択もありますし、攻撃を仕掛けたと仮定して、仮にディル様の攻撃が私に当たっていたとしても、的を絞れていない先程の攻撃ではディル様が受けるダメージの方がより致命的です。 むしろ普通に受けるよりはるかに危険な行為だったと思われます」
「攻撃を……見切る?」
「そうですね、まずは相手をよく見て癖を見つけたり、どのような行動が出来るのかを把握したうえで自分に何が出来るのかを考え、相手を上回る事を意識しましょう」
どういう事か分からなくなってきたぞ。
オウルの行動を把握して、癖をみつけて、的を絞って攻撃をする。
それって的を絞っているから運に任せているわけではないけど、僕が攻撃を当てられるかは変わらないんじゃないのかな?
あれこれと考えて見たけど結局どうすればいいのか答えは出なかった。
全部やろうとしても駄目だ。
オウルは必ず最初に真っ直ぐ突進してきて、僕の目の前で行動に変化をつけてくる。
癖に関してはまるで把握出来てない、それじゃあ的を絞る事なんて出来ない。
まずはオウルの癖を見つけないと。
もう一度オウルと対峙して、四度目の挑戦に挑む。
今度の僕は防御に徹してオウルの動きを見切るのが目的だ。
先程と同様にオウルは土埃をまとわせて突っ込んでくるようだ。
目前に迫るオウルに集中して、背後に現れた殺気に気を取られる事もなく僕はしっかりとオウルを見ている。
じっとオウルの姿を見失わないようにしていると、衝突する直前でオウルの姿が消えた。
僕は即座にオウルの来た方へ一歩踏み出し、そのまま後ろを振り返って後方と左右の攻撃に備えると、左側から微かに風を切る音が聞こえて一瞬だけ反応してしまった。
その直後に頭を打ち抜く強い衝撃が走った。
オウルは僕の背後に回り、足を止めて下から蹴り上げて来たのか。
しかし、僕もただやられているだけじゃないんだ。
足を止めた分オウルの攻撃力も下がって、受ける事に転じていた僕には反撃が出来る余力が残っている。
僅かな隙を突いて精一杯足を蹴り上げようとしたけど……オウルのいる場所とは全然違う場所を蹴り上げ、バランスを崩した僕は思ったより強かったオウルの蹴りの力に押されるまま地面をゴロゴロと転がり、そのまま地に伏した。
今回も駄目だったけど、攻撃を見切る事が少しだけ分かった気がする。
オウルの攻撃に全て対処しようとした時は、きっと僕の方から先に動いて――いや、もしかしたら僕が構えた時点でオウルには僕の取りたい行動を見切っていたのかもしれない。
そして防御に徹して気が付いた事は、土埃を巻き上げて来た時はオウルは止まって攻撃する、もしくは止まる事が出来ると言う事だ。
背後に回ったオウルは前後左右ではなく、さらに上下からの攻撃も出来る。
どの攻撃がくるのかまでは今の時点では分からないけど、きっともっと良くみたら癖を見つけらると思う。
僕は颯爽と立ち上がり、「もう一回だ!」と力強くオウルに言葉を投げかけた。
「残念ですが時間切れです。 ギムロスが呼んでいるそうなので、一度工房へ向かいましょう」
「――仕方ないな……でも装備が完成するまでにはもう少し時間があるはずだから用が終わったらもう一度挑戦するから。」
僕と機嫌のよさそうなオウルは体に着いた土を払い、ギムロスの元へと向かった。