旅路の準備 オウルとの戦闘訓練
召喚のスキルを使用し、三人の眷属を召喚した。
一人目はドワーフの鍛冶師ギムロスで、名付けによる種族変化はなく、ドワーフとして上位の存在にはなっているみたいだ。
彼は炎と土の精霊の加護を持ちエレメンタリストとしての能力も持ち合わせている。
あまり人と話すのは好きではないらしく、挨拶を済ませた後すぐに与えた役割に取り掛かってくれた。
予め作っておいた、拠点の隣の施設、工房を作業場として彼に与えた。
二人目と三人目はアリアドネの考案により、僕の望む眷属の候補からそのまま選ばずに、種族をアリアドネが選んだ種族に指定している。
理由は単純で、望むままに種族を選んだ場合、適した種族を選ばれる事は間違いないんだけど、それ以外の役割を持った時などの為に旅に出る二人にはもっと柔軟に対応出来る種族を選んでくれた。
その一人目は種族がトロルで、名付けによって鬼人へと進化したアトラスだ。
アトラスは召喚の際に大きすぎて、拠点内で縮こまって召喚されてしまったけど、進化して鬼人になってからは獣人としては大きい方と言われるくらいの大きさになってくれたので問題なく旅にも連れていけそうだ。
彼はレンジャーのクラスを習得していて、嗅覚も人間離れしているし、再生能力が高く体も大きいから戦闘時には前衛の役割も果たしてくれる。
性格も落ち着いていて紳士的な振る舞いで挨拶してくれた。
最後にミミックと言う種族のミランダ。
召喚直後はスライムだったけど、そこから名付けによりミミックへと進化した。
変身や擬態が得意で、現在の見た目は完璧に人間の女性になりきっている。
暗殺者や忍者のクラスを取得しているけど、擬態などの能力が優秀で、集団戦闘になっても活躍の期待が出来る。
少し気になったのは忠実そうな振る舞いをしてくれるんだけど、感情の起伏に乏しい印象がある事くらいかな。
「三人共よろしくね。 アトラスとミランダは僕のホムンクルスとセリルと共に旅に出て貰う。 準備なんて特にないからギムロスが装備を整えてくれたら出発しよう」
ギムロスの工房では低品質の鉄鉱石や魔獣の骨などの素材が、魔力さえ消費すればいくらでも作り出せる。
品質は悪くても、ギムロスのスキルによって、鉄であれば精錬する過程で質をよりいい物へと高める事が出来るみたいだ。
鍛冶師だけど布などの繊維素材もある程度は扱えるらしく、オウルの羽やリストの植物から加工した繊維を元に仕上げていってくれている。
アリアドネの案により、セリルの瞳はあまり見られない方が良いかもしれない。
という事で旅の間は仮面を装着してもらい、アトラスには角が生えているけど隠さずに、一本角の獣人と言う事にすれば問題ないとアリアドネが判断した。
眷属のみんなでギムロスの手伝いをしに押し掛けると、気が散ると言う理由から追い出され、それぞれが自分の役割の為の仕事に赴いている。
僕とオウルは手持無沙汰だったので、いざという時の為の戦闘訓練を行う。
僕は剣を持ち、オウルは素手だけど、鋭い足の爪、そしていくつかの魔法とスキルを使う事が出来る。
なにより戦闘経験が段違いだ。
オウルが好きに攻めて来ていいと言うので真っ直ぐ突っ込んで形振り構わずに剣を振り回すけど、簡単に躱され続けた上に剣を弾き飛ばされてしまう。
「まず……剣の握りと言うか、刃が向いている方がバラバラです。 刃は敵である私に向けなければなりません。 それと振りかぶった先で剣先が暴れているので狙った場所がずれているようですね。 魔境の主としての特性でステータスが高くても、分散した力では敵に武器を弾き飛ばされてしまいます。 あと……当たりそうになったからと言って加減をしてしまう癖は一番よろしくないかと……本当の戦闘なら隙をつかれて殺されてしまいますよ。」
オウルの指導の元、精一杯頑張ったけど結局一日中剣を振り回しても、一度もオウルに当たる事はなく、悔しくなって剣を捨てて掴みかかったりもしたけど、それも軽く去なされ、投げ飛ばされたり地面に叩きつけられたりした。
ダメージを負ってもリストの魔法と薬のお陰で回復するし、元々不眠不休で動ける体なのでまだまだ戦闘訓練は続けられる。
ギムロスが作業が終わるまであと二日程かかると言っていたし、それまでにはオウルを追い詰める――いや、攻撃を当てる事が出来るくらいにはなりたい……
とにかく当てようと攻撃を続け――集中しているといつのまにか僕は、地面を這っていた状態で攻撃を続けている。
地面に足と手の爪を立て、地面にしがみ付き、オウルに投げ飛ばされないよう体制を低く保ちながら最小限の攻撃をオウルに向ける。
この作戦は悪くない様でオウルの顔色も少しだけ焦りが見える!
たまらず僕から距離を取ったオウルに、どうだ!っと言わんばかりの視線を向けるが……
「獣ですか? 確かに形振り構わず攻撃を続ける姿勢は素晴らしいですが、四足獣の闘い方の真似を旅先でしてはいけませんよ? 人間が見れば卒倒するような恐ろしい姿でしたから……それに本能の赴くままの攻撃に頼っていては技術は得られません。 一つ私から技をお見せしましょう。」
そういってオウルは僕から距離をとり、構えた僕に対して「行きますよ。」と声を掛けものすごい速さで突進してくる。
こんな速度で衝突すればさすがに僕も致命傷になりかねないけど、千載一遇のチャンスとばかりに僕もオウルへ向かい突撃する!
この速度同士でぶつかりにいけば僕は全く反応出来ないけど、それはオウルも同じはず!
僕とオウルがぶつかる瞬間――すり抜けて僕は足を止めてしまった。
すると後ろから凄い殺気と共に強い衝撃に襲われて、地面に叩き伏せられてしまった。
「私には僅かな範囲内であれば速度を殺さずに、瞬時に別の場所へ移動できる技があります。 これを飛燕と私は呼んでいます。 それだけではこの技は完成ではありませんので、もう一度構えて下さい。 行きますよ」
再び対峙した僕に対してオウルはさっきと同じように突っ込んで来る。
今度は防御姿勢を万全にして、後ろに回った時の攻撃にも対応出来るよう意識を分散させて待ち構える。
オウルとの距離が縮まり、突然背後から強い殺気を感じたので瞬時に身を翻してガードすると、背中から強い衝撃を受けて「ぐふぁっ」っと情けない声を上げて地面に伏してしまった。
「相手に瞬時の駆け引きを余儀なくさせ、殺気をコントロールする事で惑わし致命傷を与える。 それに加え、私は自ら生じる音を完全に消すことが出来ます。 風の魔法で微かに聞こえる風切り音を使ったフェイントもあります。 まずは技術を磨き、技を身に着けるのです」
地面に伏したままの僕をオウルは抱き上げて、慌てて医務室のベッドの上に運んでくれた。
僕が返事をしないのはさっきの技を考える事で頭がいっぱいだったからだ。
オウルは殺気も風も操れて、僕が反応するのもやっとな程の速度でもその行動は自由自在なようだ。
付け入る隙がないように思うけど、オウルの言動や結果から考えて、恐らくだけど、オウル自身も的確に反撃された場合は躱す事は出来ないんじゃないかと思う。
つまり、オウルが最終的にどこから攻撃するのか分かり、直前の極限状態から反撃すれば攻撃を当てる事が出来る。
それなら……
「オウル! もう一度だ!」