アリアドネ
知識のある眷属の召喚。
思い浮かべるとそれに適した眷属が選びだされていく。
リストの時はとにかく医療技術に特化した眷属が早急に必要だと思ったから落ち着いて決める事が出来なかったけど、今回は時間もあるしゆっくり吟味してみようかな。
まずは召喚出来る種族だ。
おばあちゃんから聞かされた英雄譚や、怖い話などで出て来た種族は問題なく可能……っと言うより種族に関しては僕の知識にある者であればだいたいは呼べるのかもしれない。
ただ、天使や精霊、魔王、ドラゴンなんかは候補にないな。
ドラゴンは実在するし、強力すぎる種族は選べないか、まだ条件を満たしていない、もしくは僕の力が足りないとかなのかな?
そして僕が眷属に望む力や役割も選べる。
といっても当然と言えば当然だけど、無敵とか、全知全能なんて無理で、役割も同様に神とか天地創造のような凄いものは選べない。
今回の例で言えば候補に上がっている種族は――
【不死者】
不死者の中にも種類が沢山あって、候補に上がっているのはリッチなどの知能の高いアンデッド。
不老不死だけど、聖なる力や炎で浄化されれば復活も出来ないし、復活には時間は掛かったり人のてが必要だけど肉体的ダメージを受けすぎても活動出来なくなる。
【妖精種】
リストもこの種族に該当するんだけど今回候補に上がっているのはエルフ。
知性も高くて精霊の力を借りた魔法なんかも得意。
【悪魔】
天使が堕天した姿って話を聞いた事があるけど、天使は召喚出来ないので違うのだろうか?
今回候補に上がっているのは――夢魔?
夢の中で人を襲う悪魔だった気がするけど詳細は分からないな。
候補の中で一番適しているみたいだし、一応第一候補だ。
他にも候補は沢山あるし、同種族でも沢山種類がいるからずっと考えていると頭がこんがらがって来る。
望む力や役割はそのままで性格まで選べるわけじゃないから余程特別で限定的な眷属を望まない限りはこれを厳選する必要はないように思える。
それじゃあ第一候補である夢魔の召喚に移る。
僕がスキルを発動させ魔法陣が浮かび上がり、蝙蝠のような小さな翼を持った二本角の眷属が姿を現す。
「とても可愛らしい主さまん――この夢魔、精一杯ご奉仕させて頂きますわ」
「僕の名前はディル。 今から君はアリアドネと名乗るといい。 君には期待しているよ」
アリアドネは光に包まれ進化したようだけど、外見に変化はなく、種族も夢魔のままだ。
「名前を付けると眷属は種族に変化があったんだけど、アリアドネは何か変わった?」
「アリアドネ! 素敵な名前です。 種族ですか? 確かにより上位の悪魔になった感じはありますので変化と言うのであれば問題なく起こったと思います。 早速ですがアリアドネはディル様へご奉仕をしたくてたまりません。 御身体を清めましょう! 共に!」
アリアドネはそう言って甘い匂いを漂わせ、急に僕に近づき腰に手を回し、体を擦り寄せて来たので、肩を手で軽く押し距離を取る。
眷属で僕の事を慕ってくれる気持ちは嬉しいけどさすがに距離が近かったからだ。
「アリアドネは清めなくても生まれたばかりだし、十分綺麗じゃないか、確かに身形は整えておいた方がいいかもしれないか――そこでアリアドネ、今後の方針なんかを決めるに当たって、聡明なる君の知恵を借りたいと思っているんだけどいいかな?」
「あらん……そういう事ではないのですけど、残念ですね。 知恵ですか? 私は生まれたばかりですので大した事を進言する事は出来かねます」
「それは……困ったな……」
どういう事だ? 僕はアリアドネにそういう役割を望んで召喚したはずなんだけどな。
「お困りのようですね」
アリアドネは首を傾げるように僕の顔を除き込み、薄い桃色の大きな瞳を僕に向ける。
そして辺りの様子を窺うように見回し、再び僕の方へ瞳を向ける。
「状況を察するに、今後の方針と言う事から知識を求められて私の召喚へと至った、のであれば、他の眷属の方達にはすでに御相談されているのでしょう。 私も生まれたばかりですし、状況は理解出来ました。 それならば二つの計画を具申させて頂きます。」
そこからアリアドネの話す内容に僕は驚かされた。
まず、アリアドネの考察によって召喚された眷属は与えられた役割による経験や知識を最低限しかもって生まれてこないと言う事。
リストは医療技術と薬草などの知識と最低限の教養。
そしてアリアドネに関しては一般教養といった常識と、賢者のクラス、特殊技能として魔境内全ての会話を完全記憶する事が出来る。
それを得た情報を厳選して特定の人物に送る事も出来るようだけど、そのスキルを使用するとかなり魔力を使うみたいなので一日に何度も行えるわけではないようだ。
そこでアリアドネの提案した計画とは、眷属達数人で旅に出て情報を集める。
特に魔法やスキル、他の魔境や周囲の勢力の事など、後は眷属化する枠もある事を伝えると、その候補の選別も同時に行う。
候補の理想としては、経験豊富な老人で不老を望む者であれば交渉もしやすいだろうと言う事だった。
もう一つの計画はこの魔境、大森林に街を作り、そこで行われた会話は全てアリアドネの情報源になるので膨大な量の情報が収集出来る。
街が発展させ、学校や病院、魔術に関する施設などを設置すればさらなる知識も手に入り、この魔境の守りも盤石になると言うものだった。
そこでまずは元人間であった僕とセリルで人間の街で情報収集をする。
他にも情報収集に長け、戦闘も出来る街に居ても問題ない容姿の眷属を二人召喚して連れて行く。
僕はホムンクルスと言う魔獣の召喚を行い、それに僕の魔力を込めて遠隔操作をする事で、拠点に居ながらも旅にも出れるし、活動しない夜は拠点の強化、さらにアリアドネとの情報共有、そこから導き出した提案も即座に行う事が出来る。
魔獣とは言ってもホムンクルスはゴーレムの様なもので、主の命令なく動く事もなければ固有の意思を持つこともない。
魔獣召喚は僕のスキルで魔力さえあればいくらでも召喚出来る。
ただし、眷属達と違い魔境の恩恵は受けず、生命体であれば自給自足をしなければならない。
僕の魔力で生み出したので僕の魔力を糧とする事も出来るけど、その場合は僕の生み出した魔獣に僕の生み出した魔獣を食べさせているのに近い行為なので、今のところは僕のホムンクルス以外に召喚する魔獣は考えていない。
そして最後の眷属の枠には鍛冶師を選んだ。
僕達の服は召喚によって生み出されたリストとアリアドネ以外はボロボロだったり、ただ羽毛を紡いだだけのマントであったりと酷い身形だったからと言うのが理由だ。
それじゃあ、目的の眷属三人の一人目、鍛冶師の召喚から始めよう。