セリルが取った行動の理由
突然起き上がったセリルを見て目を丸くしていると、セリルは涙を零し、「お母様」と呟いた。
アトラスは何も言わずに僕の方へ視線を送るだけ。
「セリル、もう体を起こして大丈夫なのか?」
「ディル……ありがとう。 もう大丈夫。 ……ごめんね」
セリルの言葉を聞いた僕は急に寂しくなってしまった。
ミランダも僕から離れてしまい、セリルも離れて行ってしまうんじゃないかと不安が過った。
アトラスが一言、ギルドの依頼を受けてくると言って部屋を出て行ってしまった。
でも、きっとセリルにも事情があったはずだ。
二人きりになった方が話しやすいのかもしれない……
「セリル……その、話したくなければ、それでいいんだ。 僕はセリルが僕の元を離れていってしまうんじゃないかと思って不安なんだ。 セリルは僕の元を離れないでいてくれる?」
僕の言葉は主としては駄目だろう。
あの夜、セリルの行動によって僕達は混乱し、危険な目に合った。
主としてはそれを咎めるべきだし、事情も聞かなければならない。
でも、セリルが僕の元を離れていってしまわないか、聞かずにはいられなかった。
その他の事は、話したい時がくれば、その時でいい……
「ディル……私は生まれ変わって眷属になった。 離れて行ったりはしない、だって、お姉さんだから」
セリルは続けて何が起こっていたのか事情を話してくれた。
ヴァジールの街に着いてから妙な違和感があったらしく、遠目に城を見ると頭に何か引っかかったような感覚を持っていたそうだ。
悪魔の軍勢が城に向かうのを見た時に、何故か助けなければと強く感じたらしい。
そして、精鋭に囲まれる王子を見て、忘れていた記憶が戻り、彼を必死に守ろうとした結果、セリルは王子を庇うと言う行動に出てしまったらしい。
セリルは記憶を失う前は、ルネリアと言う名前で、あの王子の実の姉、つまり皇帝の実の娘だった。
カチェスタの河で貴族のパーティーに参加した後、馬車を何者かに襲われ、セリルは攫われてしまったらしく、記憶がなかったのは、売るのに邪魔になる記憶は全て消されてしまったからだそうだ。
セリルが目覚めなかったのは、セリル自身もあの時混乱していて、精神へのダメージが大きかったせいなんじゃないかと、語っていた。
目覚めたのは、母親である皇后が、自分に力を与えてくれたからだと説明され、詳しくは分からないみたいだ。
現在皇后はアブリ―の街に居るはずだから、会ってみるかと尋ねると、会いたいと言って来たのでこれからアブリ―の街へ行く事となった。
他にも王子が死んでしまった事や、ミランダが僕の元を離れて行ってしまった事。
セリルが眠っている間に、魔境がどうなったかなど色々な事を伝えると、僕を抱きしめて「よく頑張ったね」とだけ告げて≪ゲート≫を開いた。
王子の死はセリルにとって、とても辛い事のはずなのに、どうしてセリルがそうしてくれたのか、良く分からなかった。
僕とセリルは≪ゲート≫の扉を通り、アブリ―の街へやって来た。
一年前に来た時と比べると人も増えているし、新しい建物もいくつか建っている。
でも、行きかう人達の様子がおかしい。
話を聞いて見ると、皇后が突然消えて大騒ぎになっていたらしい。
今は落ち着き、皇后の私兵達と共に、街の人間も協力して捜索をしていると教えてくれた。
≪ゲート≫で拠点へ戻り、僕達を迎えてくれたアリアドネとオウルに、セリルが目覚めてからの事を全て伝えると、皇后に何かあったからセリルに力を与えたのではないかと推測される。
僕はそれならと思い、皇后を捜索する案を伝えると、セリルも含め、全員に却下されてしまった。
理由は聞かなくても分かる。
僕達にとって皇后の捜索は、何のメリットも無く、そもそも突然消えた皇后を探すのは無理があるし、捜索隊がいるのなら任せておけば良い。
そして、このタイミングでミランダからの伝言書による、返事が僕に届いた。




